儚桜
第3話
私と、元、彼女『那月』が初めて出会ったの
は今から20数年前─
趣味で齧っていた写真を、職業プロカメラマンとして生きたかった私は、秩父連山に抱かれた小さな町の高校を卒業後、憧れていた(師匠)こと、『榛名祐希』氏が教鞭を取るフォトスクールへアルバイトをしながら通っていた。
ある日、彼が数寄屋橋で個展を開催すると言うので、学友達と勉強を兼ねて訪れた際に、初めてそこで長女の那月と出会った─
「娘の、那月です。何時も父がお世話になっています。」
受付けをしていた那月は"華やか"で、"美しく"て、『大輪の紅薔薇』の様だった。
フォトスクール卒業後は、榛名氏にスカウトをして頂き"アシスタント"として10年師事していた。
彼の世界観に毎日触れることが出来た私はとても幸せで嬉しかった。が、
どこの世界にでもあるが、辛酸もたくさん舐めた。
当時はまだ彼女とか恋人と言う関係では無かったけれども、"那月"の存在が、唯一私を奮い立たせてくれていた──
独立して5年目の頃。
那月と再会したのは、私が大好きな"夢の国"であった。
お気に入りのダンサーさんがいた私は、休日には年パスを片手に通い詰めていた。
そんなある日、パーク内の【ゴンドラの見える水辺のイタリアンレストラン】で、偶然隣のテーブルに座っていたのだ。
「お久しぶりです…如月です。」
「分からなかったです…。すっかり"プロカメラマン"さんになられましたね。」
──それを境に急激に距離が近くなり、
『家族には知られたくない』と、那月に言われるがまま、私と那月は恋に落ちた。
(師匠)を裏切っている様な気持ちで胸がとても痛み、私はかなり悩んだ。
それでも、私は充分幸せだった──
間も無くしてから那月は私の家に、『半同棲』と言う形ちでやって来た。
二人で下町暮らしを楽しみ、四季を愛でた。
彼女は、なかなか勝ち気まけずぎらいで喧嘩もあったり、無かったり─
でも、幸せな日々はそこまでだった。
置き手紙を残して、那月は結婚してしまった…。
私は【法律ほう】に負けてしまった。
【男性おとこ】にも。
【愛する女性ひと】がいて、
どんなにがむしゃらに働いても、結局、私は無力だ。
──都内喫茶店 現在
「如月、き、さ、ら、ぎ…!」
「ああ…ごめんなさい。」
「なに、ボーっとしてるのよ?」
藤城編集長が紫煙を揺らしながら、私に声を掛けて来た。
彼女は濡羽色の服がとても似合う。
「京都から帰って来てからずーっと、変よ?」
「そう、ですか?」
私は底にガムシロップが落ちているアイスコーヒーを一口飲んだ。
「にが…。」
「ほら、そう言うところ。心ここにあらず、って感じ。あ…もしかして?あら?」
「な、なんですか?あー、彼女とかそんなんじゃないです。」
──私、墓穴掘ったかも…。
「あなたの、そう言う、んー純真さ?が
写真に出るのよね。素直と言うか…。」
「素直…ですか?私…。」
だから、馬鹿みるのかな?
「それより今回の桜の写真も、最高だったわよ。」
「本当ですか?ああ、良かった!」
「やっぱり、フィルム写真は良いわよね…、
"そのまま"って感じがするわ。暖かくて。
『写真馬鹿』な如月らしい、写真。」
コーヒーを一口飲みながら編集長がそう言うと、時計を見て慌てた様子で席を立った。
「ごめんね!これから会議だから!」
急ぎ足で戻る編集長を私は手を振り見送った。
「さーて‥帰ろうかな。」
その時、私の仕事用の携帯電話が鳴った。
(リーン…リーン)
店内だったので私は出なかった。
──
お会計を済ませ、私は外に出て着信履歴を
確認したが、初めてみた電話番号だった。
一度だけ無視をしよう…と思った。
しかし(仕事の依頼)かも知れなかったので、掛け直した。
「もしもし…」
声の主は"さくら"だった。
私は正直複雑で躊躇ったが、努めて明るく振る舞った。
「お久しぶり…。この前はどうも有難うね。」
「ごめんなさい。突然お電話をしてしまって。」
さくらは申し訳なそうに謝っていた。
「大丈夫だよ…そうだ、写真が出来たから送るね。住所教えて貰える?」
私は那月の妹とは、会いたくは無かった。
関わりたくはなかった──
「実は…今仕事帰りで、東京駅にいて。
如月さんお元気かなって…。」
(東京駅か…もう、近いじゃない。仕方ないか…。さっさと渡して帰ろう。)
「それじゃあ…駅の中央口の、和菓子屋カフェで大丈夫?今から向かうから、ちょっと待っていてね?」
電話を切ると私はそのまま緑の電車に乗り、
さくらの待つ、中央口へと向かった。
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は今から20数年前─
趣味で齧っていた写真を、職業プロカメラマンとして生きたかった私は、秩父連山に抱かれた小さな町の高校を卒業後、憧れていた(師匠)こと、『榛名祐希』氏が教鞭を取るフォトスクールへアルバイトをしながら通っていた。
ある日、彼が数寄屋橋で個展を開催すると言うので、学友達と勉強を兼ねて訪れた際に、初めてそこで長女の那月と出会った─
「娘の、那月です。何時も父がお世話になっています。」
受付けをしていた那月は"華やか"で、"美しく"て、『大輪の紅薔薇』の様だった。
フォトスクール卒業後は、榛名氏にスカウトをして頂き"アシスタント"として10年師事していた。
彼の世界観に毎日触れることが出来た私はとても幸せで嬉しかった。が、
どこの世界にでもあるが、辛酸もたくさん舐めた。
当時はまだ彼女とか恋人と言う関係では無かったけれども、"那月"の存在が、唯一私を奮い立たせてくれていた──
独立して5年目の頃。
那月と再会したのは、私が大好きな"夢の国"であった。
お気に入りのダンサーさんがいた私は、休日には年パスを片手に通い詰めていた。
そんなある日、パーク内の【ゴンドラの見える水辺のイタリアンレストラン】で、偶然隣のテーブルに座っていたのだ。
「お久しぶりです…如月です。」
「分からなかったです…。すっかり"プロカメラマン"さんになられましたね。」
──それを境に急激に距離が近くなり、
『家族には知られたくない』と、那月に言われるがまま、私と那月は恋に落ちた。
(師匠)を裏切っている様な気持ちで胸がとても痛み、私はかなり悩んだ。
それでも、私は充分幸せだった──
間も無くしてから那月は私の家に、『半同棲』と言う形ちでやって来た。
二人で下町暮らしを楽しみ、四季を愛でた。
彼女は、なかなか勝ち気まけずぎらいで喧嘩もあったり、無かったり─
でも、幸せな日々はそこまでだった。
置き手紙を残して、那月は結婚してしまった…。
私は【法律ほう】に負けてしまった。
【男性おとこ】にも。
【愛する女性ひと】がいて、
どんなにがむしゃらに働いても、結局、私は無力だ。
──都内喫茶店 現在
「如月、き、さ、ら、ぎ…!」
「ああ…ごめんなさい。」
「なに、ボーっとしてるのよ?」
藤城編集長が紫煙を揺らしながら、私に声を掛けて来た。
彼女は濡羽色の服がとても似合う。
「京都から帰って来てからずーっと、変よ?」
「そう、ですか?」
私は底にガムシロップが落ちているアイスコーヒーを一口飲んだ。
「にが…。」
「ほら、そう言うところ。心ここにあらず、って感じ。あ…もしかして?あら?」
「な、なんですか?あー、彼女とかそんなんじゃないです。」
──私、墓穴掘ったかも…。
「あなたの、そう言う、んー純真さ?が
写真に出るのよね。素直と言うか…。」
「素直…ですか?私…。」
だから、馬鹿みるのかな?
「それより今回の桜の写真も、最高だったわよ。」
「本当ですか?ああ、良かった!」
「やっぱり、フィルム写真は良いわよね…、
"そのまま"って感じがするわ。暖かくて。
『写真馬鹿』な如月らしい、写真。」
コーヒーを一口飲みながら編集長がそう言うと、時計を見て慌てた様子で席を立った。
「ごめんね!これから会議だから!」
急ぎ足で戻る編集長を私は手を振り見送った。
「さーて‥帰ろうかな。」
その時、私の仕事用の携帯電話が鳴った。
(リーン…リーン)
店内だったので私は出なかった。
──
お会計を済ませ、私は外に出て着信履歴を
確認したが、初めてみた電話番号だった。
一度だけ無視をしよう…と思った。
しかし(仕事の依頼)かも知れなかったので、掛け直した。
「もしもし…」
声の主は"さくら"だった。
私は正直複雑で躊躇ったが、努めて明るく振る舞った。
「お久しぶり…。この前はどうも有難うね。」
「ごめんなさい。突然お電話をしてしまって。」
さくらは申し訳なそうに謝っていた。
「大丈夫だよ…そうだ、写真が出来たから送るね。住所教えて貰える?」
私は那月の妹とは、会いたくは無かった。
関わりたくはなかった──
「実は…今仕事帰りで、東京駅にいて。
如月さんお元気かなって…。」
(東京駅か…もう、近いじゃない。仕方ないか…。さっさと渡して帰ろう。)
「それじゃあ…駅の中央口の、和菓子屋カフェで大丈夫?今から向かうから、ちょっと待っていてね?」
電話を切ると私はそのまま緑の電車に乗り、
さくらの待つ、中央口へと向かった。
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