儚桜

第2話

ホテルにチェックインしたあと、私は【フォト月刊誌】の隔月に寄稿している為、部屋で
缶ビールで喉を潤しながら、パソコンと格闘していた。テレビでは京都出身の『サスペンスの女王』著のドラマが再放送されていた。

(プルプル)

「お疲れ様、如月。」

藤城編集長からの電話だった。彼女は"鬼編集長"と呼ばれているが、"人格者で涙脆い"人でもある。なにより私の【セクシャル】を寛容してくれている稀有な人だ。


「お疲れ様です。今丁度パソコンで格闘しながら、文章を打っていたところでした。」

「今日の撮影はどうだった?まあ、あなたにしてみたら、大したことは無かったと思うけれども。」
クスッと笑いながら編集長は話していた。


視線をテレビに移すと、我が街の(スカイツリー)が映し出されていた。

「相変わらず楽しかったですよ。でも、最近フィルムも高騰して来たし、デジタルに移行しようかなって、思っていて。」

なんとなく愚痴が出てしまった。

「何言ってるのよ?あなたの写真は"フィルムで世界を切り取る"からいいのよ。経費で落とすから。遠慮なく言ってね!分かった?」

「有難うございます。それじゃあお言葉に甘えて…。」

そう話すと電話を切った。

「明日、写真屋さんに行って現像して貰おうかな…。なんか早く見てみたいし。」

──翌朝、私は上洛する際は必ず寄る、街の所謂【昔から家族経営】の写真屋さんに現像を頼み、出来上がるまで街の風景を切り取りながら、【紫の世界】の喫茶店へ向かった。
そこは異空間の様で私は、"透明"の宝石の様に美しい"ゼリー"を頂いた。

「そろそろ出来上がるかな…。」

何故だか分からないけれど、無性に早く現像したての写真を見たかった。
まるで、『恋人』に会うかの様な感じに。

──

私は、出来上がった写真を受け取り、その場で一枚一枚確認をさせて頂いた。


「あんたさんの写真は、いつ見ても美しいなぁ。なんや"魂"が入っていて…。」

有難い事に、間も無く80を迎えるご主人がそう言って下さった。

「有難うございます…ただの(写真馬鹿)なんです、私。」

そう答えると、さくらの写真がやっと出て来た。

「……。」

現実のものとは思えないほど、その姿は透き通っていた。現像液の中から浮かび上がってきたのは、一人の女性というより、春の夜に迷い込んだ淡い幻影そのものだった。

「綺麗なお人や。桜の妖精みたいな…。
儚げな…。」

「偶然…会った方なんです、この女性ひとと…。」

「それにしても、そんな風には見えません。何度も会おおてる、ご友人か、もっと近しい人かと思いましたわ…。」
老眼鏡を何度も頭に掛け、驚嘆していた。

──
「おおきに…」

ご主人の声を背に私は京都駅へと向かった。

(いつもの鯖寿司)を土産に、私はほぼ満席の新幹線に乗車し、かろうじて窓側の席に座る事ができた。


『近い人─』

ご主人の言葉が残響していた。

何だろう…なんか、引っかかる。  

私は気になり出した。

そして、少し緩くなったコーヒーを飲みながら頭を整理してみた。それから、棚に載せたカメラバッグから写真を取り出して再び見た。


「……那月……。」

微笑んでいるのは"さくら"の筈なのに、
鏡み合わせの様に……。
なんで、分からなかったんだろう。
どうして、気がつかなったんだろう……。

私の前から去って【男性と結婚】した、元彼女の【那月】の面影がそこにあった。

まさか……【妹】だったなんて。

まさか……【師匠の愛娘】だなんて。

だから、あの時私の相棒カメラを見つめていたのか……。


「なに、やっているんだろう…。わたし。」

まだ、未練が残っているのか自分でも分からなかったけれども…。

小さなため息と共に涙が出て…


(私は トンネルからずっと抜け出すことが出来ない)そう思った…。


そして─
【さくらとの出会いが、『逃れることの出来ない"愛"』になるなんて、この時は知る由もなかった。】


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