腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
 気持ちを落ち着かせようと一旦、周りを見回してみる。
 すると、優雅に談笑するマダムやフロアを行き交うスタッフが視界に飛び込んできた。しばらく目で追っていると、俊さんが席を立った気配がして意識が再びそちらに動く。
「ちなみに俺の親は婚約破棄の件、了承済みだから。だからそっちも『価値観の違いで円満に別れた』とか言ってうまく話を合わせてくれ。じゃあな」
 まるでこれは決定事項だと言わんばかり。俊さんはテーブル下の伝票入れからレシートを手に取ると、足早にレジへと向かっていく。
 待って……行かないで。
 そんな喉元まで出掛かった言葉が発せられない。
 いつもあれだけ私の目を見て話してくれていた俊さんが視線さえ合わせてくれなかった。その事実に彼の強い決意が感じられ、自然と視界が滲む。
< 5 / 38 >

この作品をシェア

pagetop