腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
 ……あれ?
 大きな道路を挟んで斜め向かいにある高級ジュエリーショップの前に、紫苑さんらしき人を発見して足を止めた。
 その隣にはかわいいという形容詞がよく似合う、華奢でクリクリとした大きな瞳が印象的な若い女性がいる。
 それだけではない。その女性が紫苑さんの腕に手を絡めながら、どこか甘いまなざしを彼に向けているではないか。
 紫苑さんの方もそれを受け入れるように、優しく微笑み返している。
 どういうこと?
 現実がすぐには受け入れられなくて目を瞬かせているうちに、心臓がドクドクと嫌な鼓動を刻み始めた。
 そのうちにふたりはジュエリーショップの中へ。そして顔を寄せ合うように、ショーケースの中身を覗いている。
 ……どう考えても、恋人同士にしか見えないのだが。
 女性の方がショーケースの中を指さし、ネックレスらしきものを店員さんが取り出して。それを受け取った彼女は、「つけてほしい」と言わんばかりに上目遣いで紫苑さんを見上げている。
 笑顔でそれに応える紫苑さんを見てしまい、じくりと胸が痛んだ。
 なんだか見てはいけないものを目撃してしまった気分だ。
 でも怒りは湧いてこない。だってふたりは美男美女ですごくお似合いだし、紫苑さんと私はあくまでも利害の一致により偽婚約者という関係なのだから。
 彼は親切に恋愛指南をしてくれていただけ。
 ただ私が勝手に恋をして、うぬぼれていただけなのだ。
 ふたりの本当の関係性は分からないけれど、本人に聞く勇気はない。自分にとって都合のいい解釈をしたら、また昔のように傷つくかも。
 それならいっそのこと、この気持ちに蓋をしてしまえばいい。
 大丈夫、今ならまだ引き返せる……はず。
 何度か深呼吸をしてからそっと踵を返し、私は逃げるように駆け出した。
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