トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
ソファで寄り添ったまま

しばらく二人とも何も喋らなかった

静かな時間だった

不思議と気まずさはなく、むしろ心地良い

こんな時間を過ごすのは本当に久しぶりだった

俺は紗凪の手を握ったまま天井を見上げる

紗凪も俺にもたれたまま目を細めていた

「眠い?」

そう聞くと紗凪が小さく笑う

「ちょっとだけ」

夜勤明けなんだから当然だ

むしろここまで起きていた方がすごい

「ベッド行く?」

「もう少しだけこうしてたい」

その言葉に胸が温かくなる

俺も同じだった

だから何も言わずそのまま肩を抱く

紗凪が少し身体を寄せてくる

腕の中に収まるその温もりが愛しかった

「陽貴くん」

「ん?」

「覚えてる?」

「何を?」

紗凪が少し考える

「最初の頃」

思わず笑う

最初の頃

付き合いたての頃だろうか

「どの辺だよ」

「私が全然甘えられなかった頃」

その言葉に吹き出しそうになる

確かにそうだった

あの頃の紗凪は今よりずっと距離があった

好きなのは分かるのに

全部一人で抱え込もうとして

弱音も吐かなくて

俺が心配になるくらいだった

「今は?」

そう聞くと紗凪が少しだけ照れたように笑う

「今は……」

言葉を濁す

でも

俺の服を少しだけ掴む指先が答えだった

思わず笑う

「十分甘えてると思うけど」

「そうかな」

「うん」

本当に昔じゃ考えられない

こうして自分から寄りかかってくることも

弱音を吐くことも

泣くことも

全部俺だけが知っている紗凪だ

それが嬉しくて幸せだ

しばらくして紗凪がぽつりと言う

「奏くんもまた笑えるようになるかな」

その言葉に俺は少しだけ目を伏せた

胸が痛む

それでも俺は頷いた

「なるよ」

「絶対」

紗凪が俺を見上げる

「根拠は?」

少しだけ笑いながら聞いてくる

俺も笑った

「俺たちが諦めてないから」

それだけだった

でも本心だった

優朔も

蒼依も

黒瀬さんも

そして奏の家族も

誰一人諦めていない

だから大丈夫だと思いたかった

紗凪はしばらく俺を見ていた

そしてふっと優しく笑う

「うん」

その笑顔が綺麗だった

気付けば時計の針は夜中に近付いていた

本当に久しぶりだ

時間を気にせず過ごす夜

俺はゆっくり立ち上がる

「そろそろ寝るか」

紗凪も頷く

そして立ち上がろうとして

少しふらついた

俺はそのまま紗凪の腰へ手を回す

「陽貴くん」

「ん?」

「好き」

俺は肩をすくめた

「知ってる」

紗凪が声を出して笑う

久しぶりに聞いた

心からの笑い声だった

その音を聞きながら思う

きっと

明日からまた色んなことがある

裁判も

世間も

奏のことも

まだ何も終わっていない

でも今夜だけは全部忘れてもいい気がした

俺は紗凪の手を握る

紗凪も握り返してくる

そして二人並んで寝室へ向かった

久しぶりに

心が穏やかな夜だった
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