トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
バックミラー越しに、黒瀬さんが俺たちの様子をじっと見つめている

「どうせそのうち、また『休みをくれ』って泣き言を言い始めるに決まってるだろ」

「間違いないね。蒼依は来週には言ってる自信がある」

俺が冗談めかして返すと、蒼依がすかさずそれに乗っかった

「なんなら明日の朝には言ってますね」

そこでようやく、車内にどっと温かい笑いが弾けた

本当に久しぶりだった。こんな中身のない、何気ない会話

気兼ねのない笑い声。ただ、流れていく穏やかな時間

そのすべてが、何よりも愛おしく、胸に染みた

ふと、ポケットの中でスマートフォンが小さく震えた

画面を開くと、グループLINEに一件の通知

送り主は、奏だった

『皆さん、お疲れ様です』

短い文字の後に、こう続いていた。

『ちゃんとご飯食べてくださいね』

そのお節介な優しさに、思わず口元が綻ぶ

画面を隣の蒼依に見せると、呆れたように、でも嬉しそうに肩をすくめた

「なんで入院中の一番大変な患者に、俺らが体調心配されてんすか」

「ほんとだな」

優朔も缶コーヒーを片手に、少しだけ目元を和らげる

俺はすぐにフリック入力で返信を打った

『今、車内でコンビニ飯』

数秒と経たないうちに、既読がついて画面が更新される。

『いつもの黒騎士ですね』

その文字列を目にした瞬間、胸の奥の冷えていた部分が、じんわりと熱を帯びていくのが分かった

そうだ。俺たちは何も変わっていない

いつもの、泥臭くて、必死な『黒騎士』のままだ

ただ——

たった一つだけ、以前とは違う景色がある

今、この狭い車内の中に、奏の姿はない

けれど、俺たちの隣にあるその席は、ぽっかりと綺麗に空いたままだった

誰もその場所を奪おうとはしないし、他の誰かで埋めようとも思わない

俺たちは心から信じている

いつか、そう遠くない未来に、あいつが「ただいま」と言ってあの席に戻ってくることを

ワゴン車は、夕闇に包まれ始めた東京の街を滑るように走っていく

窓ガラス越しに差し込む、燃えるようなオレンジ色の光が、俺たちの背中を優しく押し上げるように照らし出していた
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