トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
テレビ局へ到着した頃には、窓の外の景色はすっかり深い夕闇へと沈み込んでいた
朝一番から一瞬の途切れもなく動き続けていたせいか、身体の節々にはさすがに隠しきれない疲労が滲み始めている
けれど、これがいよいよ今日最後の、そして最も大きな山場となる収録だ
俺たちは互いに視線を交わし、ゆっくりと車を降りた
重い扉を抜けて局内へと一歩足を踏み入れると、そこはスタッフたちが血相を変えて行き来する、独特の騒然とした熱気に包まれていた
「黒騎士さん、入られました!」
鋭い声が廊下に響き渡り、周囲の視線が一斉に俺たちへと集まる
案内された控室の扉を閉めると、ようやく一息つける静寂が戻ってきた
使い込まれた長テーブルの上には、真新しい台本と、本日の緻密な進行表が整然と並べられている
まずは番組の細かな内容を確認しようと、全員でその紙面に目を落とした
その瞬間、蒼依が肩をすくめて苦笑いを漏らす
「……まぁ、大方の予想通りっすね」
その苦い笑みに釣られるように、俺の口元からも乾いた笑いがこぼれた
今夜の特集コーナー
そこには、嫌でも目を引く大きなフォントで、鮮烈な見出しが躍っていた。
——『黒騎士、波乱の活動再開』
——『第二会見、その後の世論と凄まじい反響』
——『崖っぷちからの今後の展望』
完全に、今夜の番組そのものが俺たちをメインテーマに据えて動いていた
無理もない。世間の関心は未だにこの騒動の渦中にあり、誰もが俺たちの次の一挙手一投足に飢えている
これくらいの逆風と注目は、とっくに覚悟の上だった
ただ、進行表のさらに細かい部分へと視線を走らせた瞬間、室内の空気が目に見えて張り詰めたものへと変わる
優朔が、いつになく冷徹なトーンで静かに口を開いた。
「……やっぱり、いるな」
彼の険しい視線の先。出演コメンテーターの顔ぶれが並ぶ一覧の中に、ある一人の名前が刻まれていた
蒼依もすぐにその名前に気づいたらしい
「うわ、あいつか……」
露骨に嫌悪感を隠そうともせず、顔をしかめる
その人物は、この業界では知らない者がいないほどの有名人だった
綺麗事はいっさい排除した歯に衣着せぬ発言、どれだけ叩かれようが物ともしない炎上上等のスタンス
相手がどれほどのトップアイドルだろうと、大企業の重役だろうと、容赦なくその痛いところを抉り、切り込んでくる男
時には核心を突いた鋭い正論を放ち、また時にはただの悪意ある挑発を仕掛ける、常に賛否両論の嵐を巻き起こす論客だった
正直なところ、俺たちにとっても決して良い印象のある相手ではない
あの第一会見の泥沼の最中にも、テレビの画面越しに、俺たちへ向けて最も容赦のない苛烈な批判を浴びせていた張本人だった。
「まぁ、今の俺たちをいじるなら、絶対外せないメンツだろ」
俺はあえて声を努めて平坦に保ち、自分自身に言い聞かせるように呟いた
壁に寄りかかっていた黒瀬さんも、深く腕を組んだまま、静かに顎を引く
「ああ、確実に仕掛けてくるな」
そして、いつものぶっきらぼうな、だけど妙に安心感のあるトーンで言葉を続けた
「……だが、絶対にビビるなよ」
その言葉に、蒼依が負けず嫌いな笑みを浮かべて即座に言い返す。「誰がビビるかって。俺、めちゃくちゃワクワクしてますよ」
「口元が引き攣ってんだよ」
「引き攣ってないっす、これが通常運転です」
そこで、ピリピリと張り詰めていた楽屋に、ふっと小さく温かい笑いが弾けた
本番前の極限の緊張感のなか、その何気ない軽口の応酬に、俺たちは確かに救われていた
背負うべき現実は重く、目の前の壁は高い
けれど、今の俺たちならどんな言葉の刃が飛んでこようとも、正面から受け止める強さがあるはずだ。
朝一番から一瞬の途切れもなく動き続けていたせいか、身体の節々にはさすがに隠しきれない疲労が滲み始めている
けれど、これがいよいよ今日最後の、そして最も大きな山場となる収録だ
俺たちは互いに視線を交わし、ゆっくりと車を降りた
重い扉を抜けて局内へと一歩足を踏み入れると、そこはスタッフたちが血相を変えて行き来する、独特の騒然とした熱気に包まれていた
「黒騎士さん、入られました!」
鋭い声が廊下に響き渡り、周囲の視線が一斉に俺たちへと集まる
案内された控室の扉を閉めると、ようやく一息つける静寂が戻ってきた
使い込まれた長テーブルの上には、真新しい台本と、本日の緻密な進行表が整然と並べられている
まずは番組の細かな内容を確認しようと、全員でその紙面に目を落とした
その瞬間、蒼依が肩をすくめて苦笑いを漏らす
「……まぁ、大方の予想通りっすね」
その苦い笑みに釣られるように、俺の口元からも乾いた笑いがこぼれた
今夜の特集コーナー
そこには、嫌でも目を引く大きなフォントで、鮮烈な見出しが躍っていた。
——『黒騎士、波乱の活動再開』
——『第二会見、その後の世論と凄まじい反響』
——『崖っぷちからの今後の展望』
完全に、今夜の番組そのものが俺たちをメインテーマに据えて動いていた
無理もない。世間の関心は未だにこの騒動の渦中にあり、誰もが俺たちの次の一挙手一投足に飢えている
これくらいの逆風と注目は、とっくに覚悟の上だった
ただ、進行表のさらに細かい部分へと視線を走らせた瞬間、室内の空気が目に見えて張り詰めたものへと変わる
優朔が、いつになく冷徹なトーンで静かに口を開いた。
「……やっぱり、いるな」
彼の険しい視線の先。出演コメンテーターの顔ぶれが並ぶ一覧の中に、ある一人の名前が刻まれていた
蒼依もすぐにその名前に気づいたらしい
「うわ、あいつか……」
露骨に嫌悪感を隠そうともせず、顔をしかめる
その人物は、この業界では知らない者がいないほどの有名人だった
綺麗事はいっさい排除した歯に衣着せぬ発言、どれだけ叩かれようが物ともしない炎上上等のスタンス
相手がどれほどのトップアイドルだろうと、大企業の重役だろうと、容赦なくその痛いところを抉り、切り込んでくる男
時には核心を突いた鋭い正論を放ち、また時にはただの悪意ある挑発を仕掛ける、常に賛否両論の嵐を巻き起こす論客だった
正直なところ、俺たちにとっても決して良い印象のある相手ではない
あの第一会見の泥沼の最中にも、テレビの画面越しに、俺たちへ向けて最も容赦のない苛烈な批判を浴びせていた張本人だった。
「まぁ、今の俺たちをいじるなら、絶対外せないメンツだろ」
俺はあえて声を努めて平坦に保ち、自分自身に言い聞かせるように呟いた
壁に寄りかかっていた黒瀬さんも、深く腕を組んだまま、静かに顎を引く
「ああ、確実に仕掛けてくるな」
そして、いつものぶっきらぼうな、だけど妙に安心感のあるトーンで言葉を続けた
「……だが、絶対にビビるなよ」
その言葉に、蒼依が負けず嫌いな笑みを浮かべて即座に言い返す。「誰がビビるかって。俺、めちゃくちゃワクワクしてますよ」
「口元が引き攣ってんだよ」
「引き攣ってないっす、これが通常運転です」
そこで、ピリピリと張り詰めていた楽屋に、ふっと小さく温かい笑いが弾けた
本番前の極限の緊張感のなか、その何気ない軽口の応酬に、俺たちは確かに救われていた
背負うべき現実は重く、目の前の壁は高い
けれど、今の俺たちならどんな言葉の刃が飛んでこようとも、正面から受け止める強さがあるはずだ。