トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
 ――そして、ついにその日がやってきた。

1ヶ月に及ぶ過酷な地方ロケ、その最終日。

最後のカットの OK が出た瞬間、静まり返っていた山奥の集落に、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。

「はい、カット! ――オッケー!!

これで全編クランクアップです! 主演・優朔くん、お疲れ様でした!」

スタッフの声と同時に、豪華な花束が僕の腕の中に抱えられる。 

普段なら、ここで共演者やスタッフの一人ひとりとがっちり握手を交わし、作品を完走した余韻に浸るところだ。

だけど、今の僕の頭の中は、余韻なんて1パーセントも残っていなかった。

終わった…。やっと、梓のところに帰れる。

胸の鼓動が一気に跳ね上がる。

「皆さん、本当にありがとうございました! 最高のチームでした!」

満面の笑みで挨拶を済ませるけれど、その足はすでに、控室代わりのロッジへと向かって歩き出していた。

とにかく、一刻も早くこの山を降りたい。

1分でも、1秒でも早く、東京の、梓が待っているあの部屋へ帰りたい。

「優朔くん、本当にお疲れ様! 監督もプロデューサーも大絶賛だよ。この後、みんなで山を降りて打ち上げ兼ねた食事会を――」

「すみませんマネージャー! 僕、今すぐ東京に戻ります。車、もう出せますか?」

「えっ? あ、ああ、一応準備はできてるけど……そんなに急いでどうしたの? 疲れてるだろうし、少し休んでからでも……」

「いいんです、全然疲れてないですから。今すぐ行きましょう」

普段は仕事に対して人一倍冷静な僕が、あからさまに焦っている様子を見て、マネージャーは目を丸くしていた。

しょうがないじゃん。

この1ヶ月間、電波も届かない暗い山奥で、どれだけ梓に会いたくて、抱きしめたくて、頭がおかしくなりそうだったか。

梓と出会うまで、誰かをこれほど激しく求めたり、一途に想い続けたりする自分がいるなんて、想像もしなかった。

彼女の前にいると、自分でも制御できないほどの独占欲が暴れ出して、僕自身が一番驚いている。

梓の写真を見るたびに募っていった独占欲が、今、クランクアップという解放と同時に限界突破して暴れ出しているんだ。

ロッジに飛び込み、劇中の重い衣装を乱暴に脱ぎ捨てる。

私服の黒いサマーニットに着替え、お守り代わりにしていたバケットハットと黒縁メガネを掴んだ。

大きなキャリーケースに荷物を押し込み、ジッパーを力任せに閉める。 早く、早く、梓に会いたい。

僕が手配したあのピンクゴールドのネックレスを、彼女がどんな顔をしてつけてくれているのか、この目で確かめたくて堪らない。

「優朔くん、準備できたよ」

「ありがとうございます。じゃあ、出発してください!」

迎えのミニバンに乗り込み、ドアが閉まった瞬間、僕は座席に深く身体を預けて大きく息を吐いた。

窓の外を、見慣れた山奥の景色がもの凄いスピードで後ろへと流れていく。

スマートフォンを開くと、久しぶりにアンテナが4本、しっかりと立っていた。

今朝、梓に送った『鍵を開けて部屋で待ってて』というメッセージには、すでに既読がついている。

愛しい彼女の顔を思い浮かべた瞬間、下腹部の奥がジリジリと熱くなった。

この1ヶ月間、外でずーーっと我慢して、限界まで溜め込んできた僕の黒い独占欲。

あの優しい笑顔で出迎えてくれた瞬間、全部、彼女にぶつけてめちゃくちゃに甘やかしてあげるんだ。

「待っててね、梓」

バケットハットの庇を深く下げ、僕はメガネの奥の瞳を獰猛に細めた。

東京へ向かってスピードを上げる車の振動を感じながら、僕は心の中で、最愛の彼女を愛することばかりを考えていた。
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