私が拾ったのは、千年前の皇子様でした
「我の父は允恭天皇だった」

静かな声だった。

「我はその長男、皇太子として生まれた。母の記憶はあまり残っておらぬ。兄弟はいたが、皆それぞれ立場があり、心から語り合える者はいなかった」

一度言葉を切る。

そして、小さく笑った。

「ただ一人だけ……妹だけは違った」

私は何も言わず、悠真の言葉を待った。

「軽大娘皇女」

その名前を聞いた瞬間、
胸が少しだけ締めつけられる。

「妹は幼い頃から、いつも我の後をついて歩いていた」

「我が剣の稽古をしていれば隣で見ており、書を読めば隣で眠り、庭を歩けば嬉しそうについて来る。我にとって妹は、ただ一人の家族だった」

悠真は懐かしそうに目を細める。

「だが、その幸せは長くは続かなかった」

部屋の空気が静かに張り詰める。

「父が亡くなり、都は大きく変わった。権力争いが始まり、人は人を疑うようになった。そして我は……伊予国への流刑を命じられた」

悠真はゆっくりと拳を握る。

「妹は我から継承権を奪うため、弟に利用された」

「利用?」

「我らは確かに愛し合っていた。けれど、
あくまで兄妹として接していた」

悠真の『愛していた』という言葉が、
私の胸をさらに締め付ける。

「弟は傲慢なやつだった。そして、我らが許されぬ関係であると、話をでっちあげ我を罪人に仕立て上げた」

「そんな、ひどい……」

「その後、流刑になった我は、妹に「さよなら」も告げることなく、都から追放された」

少しの沈黙。

「我が伊予国に辿り着いた後、しばらくして、妹がやってきた。衣は破れ、泥だらけになり、足も血だらけであった」

私がクリスマスの夜にみた夢と同じ……

「そうして、我らは今生で結ばれることを諦め、来世で結ばれることを約束した」

私は思わず悠真を見る。

「しかし、気づけば我は、この時代へ来ていた。妹がどうなったのか。なぜ我だけが生きているのか。何一つわからぬ」

悠真は首元のネックレスをそっと握った。

「だから我は知りたい。妹に何があったのか。そして、なぜ我がこの時代へ来たのかを」
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