私が拾ったのは、千年前の皇子様でした
今日は本当に疲れた。

頭の回転も、感情も追いつかず、
今でも目がぐるぐる回っている。

でも、帰ってから苦手な食事をつくり、片付け、
悠真にいろいろ教えて、寝支度--

私は生きて明日を迎えることが、
出来るのだろうか。

「ただいまぁ〜」

自分でも驚くくらい、
おじさんのような声だった。

玄関に倒れ込みそうになるのを耐える。

ふと、なぜかいい香りが漂ってきた。

この匂いはカレーだ!

急いでリビングへ向かう。

キッチンを見ると、慣れたようにカレーを作っている、悠真の姿があった。

「ん?え、ドユコト?」

状況が把握できず、
言葉が思わずカタコトになってしまった。

「帰ったのか」

爽やかな笑顔で、私に悠真は言った。

ま、眩しい!

今日は色々あって疲れていたが、
悠真の笑顔で吹っ飛んでしまった。

さすが、イケメンだ。

ってそこじゃなくて。

「なんで、悠真、カレー作れるの?」

だって不思議でしかない。

食材も、カレーのルーも、レシピもない。

そもそも古墳時代に、
日本にカレーなんて存在しないはず。

それなのに……

「これ、どうしたの?」

私は鍋の中を覗き込む。

すると、悠真は大きなダンボールを持ってきた。

「この中に、すべて入っていたのだ」

そこには、実家から送られてきた、
大量の食材と、手紙が入っていた。

「あ〜なるほどね」

そこには、カレーの作り方が、
小学生でも分かるような書き方で書かれていた。

うちの親は、
私をどれだけ出来ないやつだと思って……

いや、仕事以外。

つまり、家事はほとんど出来ないということを、
しっかりと理解されているのだ。

26歳にもなって、こんな扱い……

情けないわっ。

私が心の中で、
自分の情けなさに打ちのめされていた時だった。

突然、目の前に悠真の顔が現れた。

「一体どうしたのだ?」

そう心配そうな顔をして、悠真は優しく言った。

古墳時代の人に、料理で負けたなんて、
とてもじゃないけど言えない!

「ううん!なんでもない!ありがとね!」

私は気を取り直して、
パックのご飯を二つ、レンジに入れた。

それを見て、悠真は

「これはなんだ?」

と不思議そうに言った。

チン。

ひとつずつ、レンジから取り出す。

そしてゆっくりと、蓋を剥がす。

「こ、これは米か!?」

悠真はパックの中で、
輝く白米を見てとても感動している。

私はパックのご飯と、カレーをお皿に盛り付けた。

そして、二人で椅子に座る。

「いただきます」

「いただきます」

二人の声が揃う。

悠真は、三日間で多くのことを覚えている。

タイムスリップしたという現状を受けいれ、
今の時代に順応しようとするのは、
とてもすごい。

私だったら、パニックになって、
死んでしまうかもしれない。

カレーを食べながら、今日あったことを思い出す。

「悠真、これから帰り遅い日増えるかも」

そう言うと、悠真は

「仕事が忙しいのか?頑張ってくれ」

と言ってくれた。

なんでこんなに飲み込みが早いのだろうか。

現代の男たちも見習って欲しいものだ。

カレーを食べ終え、片付けをしていた時だった。

悠真がドリルを見せてきた。

すると、全てのページが終わっていた。

「す、すごっ」

「この中にあるものは全て覚えたぞ」

少し、誇らしそうに悠真は言った。

「今日一日で……」

天才というか、むしろ狂気を感じる。

ふと、疑問が浮かぶ。

「悠真は、なんでそんなに頑張るの?」

私は何気なく質問した。

すると、悠真は真剣な顔になり、

「お主が働いているのに、何もしないなどおかしいであろう?」

と、当たり前のように言った。

いい男すぎるだろ……

「それに、お主といるためには、
この時代に慣れなければならないからな」

そう言って、悠真は優しく笑った。

その言葉に、胸が熱くなる。

……でも同時に、少しだけ怖くなった。

ずっと、
この人がここにいるのだろうか。

私の隣に。

ただ拾っただけの、
他人なのに。
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