不倫の恋
三人で食事を終え、会計を済ませて店を出た。
「ふみさん、ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
愛斗は丁寧にお礼を言うと、そのまま自分の家へと帰った。部屋に入り、冷蔵庫からカフェオレを取り出して一気に飲み干すと、何もする気が起きず、そのままベッドに倒れ込んで眠りについた。
次の日の朝、目を覚ましてからは、ただぼんやりと一日を過ごし、時計の針が進むのを待つように、やがて夜が明けて次の日がやってきた。
約束の日、愛斗はふみと待ち合わせをし、二人は連れ立って山へと向かった。
ゆっくりと坂道を登り、木立の間を抜け、頂上までたどり着くと、眼下には町並みが一望でき、遠くの山々まで青くかすんで見えた。二人はしばらく景色を眺め、写真を撮り合っていたが、ふみがふと愛斗の側へと歩み寄った瞬間、足元の草むらから細長い影がするりと這い出てくるのが目に入った。
蛇だ。
ふみは思わず悲鳴を上げそうになり、ぎゅっと目をつむると同時に、勢いよく愛斗の胸元へと飛び込んだ。
ぎゅうと抱きついて、心臓が早鐘のように鳴るのを感じながら、恐る恐る顔を上げて愛斗を見つめると、彼は柔らかく笑ってふみの肩を抱き寄せ、そっと唇を重ねた。
柔らかな口づけに、ふみの胸の高鳴りは恐怖からときめきへと変わり、二人は顔を見合わせてくすくすと笑い合った。
辺りには誰もいない木々のざわめきと風の音だけが二人を包み込んでいた。
誘われるように、二人は茂みの奥へと身を寄せ合い、激しく求め合った。草木の香りと、お互いの体温が混ざり合い、山の中で二人は一つになった。体を重ね、熱い時間を過ごしたあと、ゆっくりと服を整えてズボンをはきながら、ふみは頬を染めて愛斗を見上げた。
愛斗くんって、思ったより大胆なんだねえ」
「うん、ふみさんだからだよ」
ふみがふとバッグの中を覗いて言った。
「あ、コンドーム、もうなくなっちゃったね」
「うん、また買わないとね」
「そうだね」
二人はもう一度唇を重ねて、ゆっくりと山を降りていった。
麓に着くとすぐそばにコンビニがあり、店に入ってカフェオレとお菓子を手に取り、さりげなくコンドームのコーナーへと向かった。何種類かを手に取って選んでいるその様子を、店の隅に置かれた雑誌棚の陰から、幸輝がじっと見つめていた。
だが二人はそれに気づくこともなく、会計を済ませて店を出ると、すぐ隣に建っているラブホテルへと足早に入っていった。
部屋を選んで中に入るなり、二人は熱く唇を重ね、先ほどの山の中と同じように、激しく体を求め合った。
何度も抱き合い、体中にお互いの痕跡を残し合い、たっぷりと時間を過ごしたあと、ようやく部屋を出て、それぞれの家へと帰った。
ふみが家の玄関を開けて中に入ると、そこには幸輝が立っていた。
ふみと愛斗は突然のことに一瞬体を強張らせたが、何も知らないふりをして笑顔を作り、挨拶をした。
「あら、幸輝さんいらっしゃい。今仕事が終わって帰ってきたところなの」
「そうなんだ」
「あなた、そろそろ病院に行く時間でしょ」
ふみが貞夫に声をかけると、彼は「はい」と頷いて身支度を整え、そのまま病院へと出かけていった。
家の中には、ふみと愛斗、そして幸輝の三人だけが残された。
「もっちゃん、今日はもう帰って。これから仕事の打ち合わせがあるの」
「その打ち合わせって、どんな内容のものなんだ?」
「どうしてそんなこと聞くの? 関係ないでしょ」
幸輝の表情がふと険しくなり、低い声で言い放った。
「二人、不倫してるだろ。見たんだよ。コンビニでコンドームを選んで、そのあとホテルに入っていくところまで、はっきりとな」
ふみの顔から血の気が引き、体がふるふると震え出した。
「ち、違うの、それは誤解で、あのね……」
「言い訳はいい。このこと、貞夫さんに全部話すからな」
「やめて! お願い、それだけはやめて!」
ふみは慌てて幸輝の側に近づき、周りに聞こえないように耳元に口を寄せて、必死で懇願した。
「このこと話したらどうなるか分かってるの? 昔工事で火事になりかけたとき、誰が見逃してやったと思ってる? 今から警察に全部話すよ。そうしたらお前の店、営業できなくなるよそれでもいいんならは話しな」
幸輝はしばらく黙ってふみの目を見つめていたが、やがてゆっくりと頷いた。
「……わかった。今日見たことは、誰にも言わないよ」
「本当? ありがとうだからどうかこのことは内緒にしておいて」
「わかった。約束する」
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