ほたる先生は振り向かない
細いフレームのメガネ。
午後になるとしわが増えるワイシャツ。
指についたチョーク。

きっちりまとめた教科書とプリント類。

授業が終わるチャイムとぴったり同時に挨拶。
静かに消される黒板。

生徒なんてどうでもよさそうな、温度の低い目。


チャイムと同時に一斉に散らばるクラスメイトをかき分けて、廊下へ飛び出す。

そして今さっきまで何度も見つめていた細身の、でも姿勢のいい大きな背中に声をかけた。


「ほたる先生!」


声をかけたのに、振り向かない。
さっさと歩いていく。

チッ、と内心舌打ちをしながら追いかけるスピードを上げて、先生の前に回り込む。

やっと先生は立ち止まった。


「────なにかご用ですか?」

めちゃくちゃ不服そうな顔をして、私を見下ろす。

先生のこういう言い方や視線には慣れっこだから、全然へこたれない。
むしろこの塩対応がいい。


「ねぇ、放課後、職員室行っていい?」

「先程の授業で分からないところがあるのであれば、いま聞きますが」

「ううん。あとでじっくり聞きに行く!」

「いいえ、僕も暇じゃないんですよ。ここで聞きますから」

「だって聞きたいこと、山ほどあるもん」

「……岸さん」

はあ、と分かりやすいため息をつかれる。


「今日は、ちゃんと古典のことだけにしてくださいね?」

「んー、考えとく!」

「あと、言葉づかい間違ってます。僕は教師です。敬語を使ってください」

「考えとくってば!」

「“考えとく”ではありません。“考えておきます”です」

「めんどくさ」


放課後行くね!と先生の呆れた顔は見ないふりをして、さっさと逃げた。




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