ほたる先生は振り向かない
待ち合わせをしているスタバで、“キャラメルフラペチーノホイップ多め”を飲みながら単語帳をめくる。

参考書を広げていると周りの人にも迷惑になりそうだから、単語帳だけ出して繰り返し眺めていた。


ワイヤレスイヤホンからは、流行りの曲が流れている。
SNSとかでよく聴いたことあるような曲だった。

でもまあ、勉強のBGMとしてはちょうどいい。


半分ほど飲んだところで、私の横に誰かが立つ気配がして顔を上げる。

スポッとイヤホンを片耳取られる。

「おつかれ!」

玲奈がにこっと笑ってイヤホンを持っていた。


彼女は夏休みに学校へ来ているのを見たことがない。
それでもちゃんと制服を着てきたあたり、学校帰りの私に合わせてくれたんだと分かる。

勉強があまり好きじゃないからか、「夏休みに勉強のために学校行くのだるい!」と豪語していた。

私が今さっきつけていたイヤホンを自分の片耳につけると、手に持っていた抹茶フラペチーノをテーブルに置いて、無理やり隣に座ってくる。


そして、パタパタと制服のリボンを緩めてブラウスを引っ張って暑そうに眉を寄せた。

「マジで暑い。死にそう。毎日これでよく学校通えるね、まつり」

「教室は逆に寒いよ」

「それが無理なんだって」

「ただ、それを除けばめっちゃ勉強に集中はできる」


私が持っている単語帳をちらりと見やった玲奈が、呆れたように目を細める。

「まつりぃ。どんだけいい大学行きたいの?めっちゃ勉強頑張るじゃん。そんなにやんなくてもそこそこいい大学行けるっしょ?」

「んー、考え中」

「ねぇー。夏休みなんだし毎日遊ぼーよー」

素直な彼女の感想にふっと吹き出してしまう。
パタッと単語帳を閉じて、バッグにねじ込んだ。


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