ほたる先生は振り向かない
玲奈の推しが絶賛コラボしているそのカフェは、想像通り高かった。


「このドリンク九百円するの意味わかんなくない?」

なんの変哲もないアイスココア。
上に乗っかった固めのホイップクリームに、キャラクターがウィンクしているデザインのピックが刺さっている。

いちばん安くて、私のこのココア。
玲奈が頼んだタピオカミルクティーなんて、千三百円。

ストローの先っぽに、同じようにキャラクターがついている。


彼女はそれはそれは楽しそうにアクスタをいくつも並べて、あらゆる角度からスマホで写真を撮っていた。

「推し代だから実質無料」

「……その理論一生わかんない」

私はその横で、やたら甘そうなココアに手を伸ばす。

「まつりっ!まだダメ!もうちょい…撮らせて」

アスクタとドリンクの角度を微調整している玲奈は、間違いなく授業中よりも真剣だ。


「まつりの九百円、無駄にはしない」

「たまにだから全然いーよ。私あんまり物欲ないし」

「えー。夏服セールで買いに行かない?」

「私はいいけど、玲奈はお金あるの?」

「……ない」

────買い物、行けないやないかい。


頬杖をついて、玲奈の横顔を眺める。

キラキラしたその瞳が、何度も瞬きしている。


……推し活がこれだと言うのなら、私も職員室に推し活に行ってるようなもんか。

そんなことを考えながら、ふわりと口元が綻んだ。




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