ほたる先生は振り向かない
色とりどりの、ちょっとやる気がなさそうな舌を出して寝そべっている犬のぬいぐるみ。

バッグにつけるのにちょうどいいサイズ感。

口がへの字になっていて、眉毛も下がっていて。いわゆる脱力系だ。

「違うよ、リラックスしてる目だよ」

「リラ…ックス……?」


そのぬいぐるみたちは、絶妙に死んだような目でこちらを見ている。

「青か水色がいいなー」

私はそんなことを言いながら、お財布を取り出した。


「まつりもちょい無気力気味だもんねー」

「私はいつでも全力だよ?」

「なに?好きな人でもいんの?」

玲奈の何気ない言葉に、UFOキャッチャーを操作する手が滑った。

どうでもいいところでアームが降下し、思いきりスカってしまった。


「下手すぎじゃん?」

あははと大爆笑する玲奈を横目に、誰のせいで失敗したと思ってんの、と言いたくなったけれど。

ここでムキになると色々バレそう。

視線だけはUFOキャッチャーの箱の中に向けておいた。

「絶対取ってやるんだから」


何回も何回も、繰り返し小銭を投入して頑張る。

しかし。しかしながら。
いいところまではいくのに、どうしても落ちない。

もうすぐ取れそうなのに、取れない。


「珍しいねー、まつりがこんなに欲しがるの」

暇そうに眺めている玲奈は、あくびまでし始めた。


────なんとなく、ほたる先生に似てるから。

くたっとした表情で寝そべる犬。
なんにも、誰にも興味がなさそうにしているその顔。ほたる先生みたい。


「こっちのピンクのやつの方が取れそうじゃない?」

私がガチャガチャ動かしまくっているおかげで、全然違うところに配置されていたピンク色の犬がもう少しで取れそうな位置にはいた。

……いや、でも。

「ピンクじゃないんだよなあ」

「なにそのこだわり〜」


さっき自分で聞いてきたくせに、私の“好きな人”について追求してこない。

玲奈のそういうところが、好きだったりする。


やがて手持ちの現金を概ね使い果たしてしまった私は、泣く泣くUFOキャッチャーの前で突っ伏した。

「────ダメだ、また明日来る」

「え!?明日も!?」

「大丈夫。一人で来るから」

「マジで?どんだけ欲しいの?」


いったいいくらつぎ込んだんだろう。
空っぽになりかけているお財布を見下ろして、ひと息ついた。

「取れるまで通ってやる」

「まつりがそこまで執着するなんてびっくり。メルカリとかにありそーじゃない?」

「それじゃ意味ないし」


私はバッグを肩にかけ直して、気持ちを切り替える。


「通い続けてれば、いつか取れるから。私、諦め悪いからさ」


歩き出したら、少し遅れて玲奈がついてくる。
めちゃくちゃ苦笑いしながら。

「冷めてるのかと思ったらアツいじゃん」

「熱しやすくて、冷めにくいんだもん」

「あー、まつりっぽーい」


私たちはくだらない話をしながら、ゲーセンを出た。

もう外はすっかり日が暮れていて。
夏の夜の匂いがした。




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