ほたる先生は振り向かない
「なんで!?」

「教師が生徒から個人的な贈り物を受け取るのは、色々と面倒なんです」

「チョコひとつで?」

「チョコひとつだからです」


意味が分からなくて、私は顔をしかめる。

先生は小さくため息をついた。

「岸さんだけ受け取るわけにもいきませんし」


またそれだ。口癖のように繰り返されて、いい加減聞き飽きてきたほどだ。

平等。
距離感。

そういう人だ。
それは痛いくらい、分かってる。
分かってるけど。


「……頑固だよね、先生って」

「いいえ。常識です」


先生は職員室のドアへ手をかける。

そして、入る前に振り返らずに「それと」と付け加えた。

「受験、頑張ってください」


横顔しか見えなかった。
それでも、少しだけ優しく聞こえた。

先生は惜しむことなく、今度こそ職員室へ消えていった。


バッグの中には、渡し損ねたチョコ。

なのに、なぜかちょっとだけ笑ってしまった。



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