ほたる先生は振り向かない
高校三年生の夏は、長いようであっという間に終わることを知っている。

だってここまでの高校生活が一瞬で過ぎたように、夏から卒業までが秒で終わることを、もう私たちはとうに悟っている。


大学進学、専門学校、短大、就職…。
選択肢が多すぎて、迷う人は迷うはずだ。

いつもうちの学校は夏休みも開放されていて、涼しい部屋で快適に勉強ができる環境が整っている。
家で過ごすよりも、有意義な時間を過ごすことはできるのだ。

先輩たちが三年生になった途端、夏休みも自習室にこもって真剣に勉強している姿を流し見していたけれど。

今年は私たちの番だ。


「岸〜、夏休み一緒に勉強しねえ?」

お昼休みに窓から顔を出してパックジュースを飲んでいたら、隣に並んだ男子に声をかけられる。

ストローでオレンジジュースを吸いながら、ちょっと考えてしまった。


……私がこいつと一緒に勉強するメリット、あるか?

まだイエスもノーも言っていないのに、やつは勝手に話を進めていく。


「俺さ、英語苦手だから。教えてくんない?」

「セリーナ先生に聞けば?」

「夏休みの前半は母国に帰るんだってよ」

「他にもいるじゃん、英語の先生」

「夏休みは勉強しに来るんだろ?学校に」

「まあ…」

曖昧な返事だけをして、果たして“勉強しに来る”のか“会いに来る”のか、そこだけを考えてしまう。


「まつりー、口説かれてるよー」

教室の隅っこにいる玲奈が、どうやら教えてくれているらしい。

……あぁ、そういうこと。

ちらっと隣を見たら、でれっとした顔で私を見ているそいつと目が合って逸らした。


下心しかないじゃん。無理すぎる。
しかもさっき、ほたる先生に難癖つけてた。もっと無理。


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