夜の風景

第1話 – 15ページ目:東京の秋の庭


秋の空気が、ひんやりと澄んでいた。


黄色く色づいた葉が、ひとつまたひとつと枝を離れ、音もなく地面やベンチの上に舞い降りる。


庭は静けさに包まれていた。

枝の間を抜ける風の音――

鳥の足元でそっと擦れる落ち葉の音――

そして、湿った土の香りが空気の中で穏やかに広がっている。


その静けさの中で――


ミヤとイロは、並んで座っていた。

まだ秋の金色をわずかに残した木の下で。


ミヤは、自分の手のひらに落ちた一枚の葉を、そっと指先で回した。

しばらくそれを見つめていたが――

顔を上げずに、言った。


「イロ…あなた、詩も書くの?」


イロは、風に揺れる枝の先を見つめていた。

まばたきをする。


「たまに…気が向いたらな。」


ミヤは、ほんの少しだけ彼に寄り添った。

その温もりがかすかに伝わるほどの、わずかな距離で。


彼女の唇に、小さな笑みが浮かぶ。


「じゃあ…私にも、ここでひとつ、詩を読んで。」


イロは枝から視線を外した。

その目が、ミヤの横顔で止まる。


微笑んだ。


「少し時間をくれないか…

詩はコーヒーみたいなものだ。急ぐと、台無しになる。」


ミヤは、そっと笑った。

短く、しかし確かな声だった。


「いいよ…待ってる。」


沈黙。


柔らかな風が、ミヤの髪をそっと揺らす。

数筋の髪が、彼女の頬に落ちる。


イロは深く息を吸った。


一瞬、目を閉じる――

まるで、自分の内側にある何かを探すように。


そして、静かに口を開いた。



秋風に

舞い落ちる葉は

静かなれど

君の瞳は

春を運ぶ


言葉なく

ただ寄り添う

この静寂

君という光

知る冬の前


風が、やさしくなった。


ミヤは微動だにしなかった。

葉を握るその手が、ほんの少し震えた――

自分でも気づかないほどに。


胸の奥で、何かが波打った。

寒さからではない。

風からではない。

ただ――誰かに、問われる前に理解された、そのことから。


彼女は、静かに言った。


「イロ…この詩、私のために?」


イロは微笑んだ。

あの、いつもの穏やかな、完全には読み解けない微笑みを。


「君が読めって言ったからな…」


間を置いて。

その目が、ほんのわずかに柔らかくなる。


「最後のところは…少し変えてみた。」


さらに静かな声で続ける。


「よくなっただろうか?」


ミヤは唇を引き結んだ。

笑みを隠そうとしたが――

できなかった。


笑顔が、静かにこぼれた。

小さな、しかし確かな。


風が、一枚の黄葉を枝から解き放つ。

それはゆっくりと舞い、イロの膝の上にそっと降り立った。


どちらも、何も言わなかった。


秋は、二人をその温かな色の中に隠していた。


そして、その静けさの中で――

何かが、二人の間に芽生えていた。


告白ではない。

約束でもない。

ただ――


ひとつの、静かな安らぎ。

ミヤは、葉から視線を外した。

一瞬、ただイロを見つめた。


そして――

微笑んだ。


習慣からではない。

誇りからではない。


長い間、眠っていた心の奥底から。




第1話 完
< 15 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop