夜の風景

約束の夏、そして…



第3話 – 3ページ目:試験の始まりとライバル


4月上旬 – 学校、図書館


春の空気はまだ完全には温まっていなかったけれど、学校は試験の熱気に包まれていた。

図書館の静けさも、もはやただの沈黙ではない。本のページをめくる音、ペンが紙の上を速く走る音、時折聞こえる少しだけ荒い息遣い――すべてが緊張の証だった。


ミヤは机に座っていた。

数学の教科書は開かれているけれど、彼女の目は数式の上をさまよっている。ペンを指の間でくるくると回しながら。


ユカが向かいに座り、顔も上げずに言った。


「集中してる?」


ミヤは、そこでようやく自分がここにいることを思い出したかのように瞬きをした。


「…まあね。」


しかし、本当のところ、彼女の心はその紙面からはるか遠くにあった。


隣の席は、空ではなかった。


サクラ。


彼女の、かつてのライバル。

いつも一つ先を歩いていて、しかもそれを決して見せようとしない少女。


サクラは、静かに座っていた。背筋は伸び、無駄がなく、正確だ。

ペンが走る線の一つ一つが、あらかじめ計算されつくしているかのようだった。焦りもなく、迷いもなく。


ミヤは、無意識に彼女を見つめていた。


「前より静かになった気がする…」


すぐに心の中で否定する。


「いや、前もこうだった。」


でも、何かが違っていた。何なのか、言葉にできる自信はなかった。


ユカが、さらに声を潜めて言った。


「ねえ、ミヤ。今回のテスト、あの子と競うの?」


ミヤはペンを指の間でまた一回転させた。


「べつに…競いたいわけじゃない。」


「じゃあ、何で勉強してるの?」


ミヤは間を置いた。

単純な質問だったけれど、それに答えるのは簡単ではなかった。


そして、静かに言った。


「…自分のため。」


ユカは小さく笑った。それで十分だと言うように。


「そっか。いいね。」


そして、また自分の本へと戻っていった。


---


ページが一枚めくれる音。


サクラが、静かに立ち上がった。


一瞬、ミヤの机の横で立ち止まる。

顔も上げず、何かを付け加えることもなく。ただ、短く。


「…頑張ってね。」


冷たくもなく、温かくもない。

ただ、本物だった。


ミヤは、少しだけ顔を上げた。


「うん…あんたも。」


サクラは去っていった。

廊下の向こうへ姿を消す。


ミヤは数秒間、その空いた席を見つめていた。


「あの子…何考えてるんだろう。」


単純な好奇心ではなかった。

まるで、その奥に隠された何かを感じ取ったかのように。


---


夕方 – 学校の出口


陽の光が校舎の壁に当たっていたが、もう午後のような鋭さはない。

柔らかく、ゆっくりと沈みゆく何かのように。


ミヤが校門を出る。


外の空気は、図書館の中よりもずっと軽かった。


数歩先、サクラが見えた。


一人だった。


いつものように、誰も隣にはいない。誰も追いかけてもいない。


ミヤは、無意識に足を緩めた。


彼女の視線は、サクラの背中に固定される。


「イロに…会いに行くのかな。」


その考えは、突然やって来た。

招かれざる客のように。


そして同時に、彼女の胸の奥に、何か重いものを置いていった。


嫉妬ではなかった。


もっと漠然としていて――

何かが足りないと感じること。それが何なのかもはっきりとはわからないまま。


ミヤは、しばらくその場に立ち尽くしていた。


そして、静かに歩き出す。


けれど、彼女の心はまだそこに残されていた。

サクラが進む道の先に。

イロのカフェへと続くかもしれない、その道のりに。
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