夜の風景
約束の夏、そして…
第3話 – 2ページ目:教室で、友達の隣で
翌日 – 学校、休み時間
朝の光が、教室の大きな窓から机の上に柔らかく降り注いでいた。
細かな埃の粒が、その光の中でゆったりと漂っている。まるで時間が、ほんの少しだけゆっくりと流れているかのように。
ミヤがノートを閉じ、顔を上げる。
教室の隅で、ユカ、リナ、ハナが集まっていた。
彼女たちの笑い声は、騒がしくはないけれど、生き生きとしている――かつてミヤが遠くから聞き流し、「自分には関係ない」と無視していた、あの笑い声だ。
ほんの数週間前まで、自分はこの輪の中に居場所を見つけられなかった。
いや、そもそも自分から入れてもらおうとしなかったのかもしれない。
今は、違う。
ユカが一番先に彼女を見つけた。手を挙げて、いつもの元気な声で呼ぶ。
「ミヤ!こっちこっち!」
ミヤは思わず微笑んだ。
席を立ち、バッグを持って彼女たちの元へ歩いていく。
まだ時々、こんな風に近づくことに少し戸惑いを覚えるけれど、もう逃げ出したりはしない。
彼女が輪の中に入ると、ハナが前置きなしに尋ねた。
「この前の図書館、誰と行ったの?絶対隠してるでしょ!」
ミヤはその瞬間、面倒なことになったと悟った。
頬が、少しだけ熱くなる。
「べ、別に…ただの友達。」
リナは疑い深い目で眉をひそめる。
「ただの友達で、そんな顔赤くならないでしょ。」
ハナは興奮してさらに身を乗り出した。まるで重大な事件を発見した探偵のように。
「怪しい。」
ミヤは、ため息をついた。
「ほんとに違うってば…」
ユカが笑いながらハナの肩に手を置く。
「まあまあ。そんなに追い詰めないの。」
そして、ミヤに向き直り、柔らかい笑顔で言う。
「ミヤにも、自分のタイミングがあるでしょ。」
ミヤは、彼女に一瞬だけ視線を送った。
「ありがとう」と伝えるには、それだけで十分だった。
その時、彼女のスマホが震えた。
無意識に、皆の視線が集まる。
画面に表示されていたのは――
イロ
ハナが、叫んだ。
「あっ!!この『イロ』って誰!?」
ミヤは、弾かれたようにスマホをひっくり返す。
「だ、誰でもない!ただの…ただの知り合い!」
リナは、もの言いたげな落ち着いた声で言った。
「“ただの知り合い”から電話くる時の顔じゃないね。」
ユカは笑いをこらえきれない。
ミヤは急いでその場を離れ、電話には出なかった。
ただ、深呼吸を何度か繰り返し、顔の熱を必死に冷まそうとする。
彼女が戻ってくると――
ハナが誇らしげに自分のスマホを掲げた。
「証拠写真、撮っといた。」
ミヤは言葉を失う。
「は、ハナああ!!」
リナとユカは、同時に笑い出した。
そして、ミヤ自身も、思わず笑顔をこぼしてしまった。
数分後、彼女たちは窓際に立っていた。
柔らかな春の風が、少しだけ開いた窓から吹き込み、カーテンをそっと揺らしている。
学校の喧騒――足音、笑い声、遠くのチャイム――すべてが、ぼんやりとした背景の音に溶け込んでいた。
ミヤは校庭を見下ろす。
木々は、もうすっかり冬の面影を残していない。
小さな芽が、枝先に顔を出し始めている。
彼女は、心の中で思う。
「前は、こんな風に笑えなかった。」
「一人でいる方が、ずっと楽だと思ってた。」
「でも…今は違う。」
隣で、ユカがそっと口を開く。
「ミヤ、変わったね。」
ミヤは窓から視線を外し、ユカを見る。
「…そうかな?」
ユカはうなずく。
「うん。ちゃんと、いい方に。」
ミヤは、何も言わなかった。ただ、微笑んだ。
彼女の視線は、友達へと移る。
まだあの電話のことで興奮を隠せないハナ。
無関心を装いながら、全部わかっているリナ。
そっと、ただそばにいてくれるユカ。
そして、ミヤは心の中で静かに言う。
「春が来たから、変わったんじゃない。」
窓から差し込む光を見つめながら。
「変わろうとしたから、春が来たんだ。」