彼の手『だけ』を見ていた私は、
「っ……!」

 肩が震える。
 熱を持った親指が、火照った頬をゆっくり撫でる。それだけで頭の奥が痺れて、息が詰まりそうになった。

 だめだ。
 近い。
 近すぎる。

 なのに、触れている手から逃げたくない。

「はは、かわい。真っ赤だ」

 長谷川さんは堪えきれないみたいに笑って、頬に添えた手に少しだけ力を込めた。逃げられないように、そっと顔を上向かされる。

「見てたの、自分だけだと思ってた?」
「…ぇ」
「それとも俺の手ばっかり見ていたから、俺が君を見てたことに気づかなかった?」

 息が止まった。

 その言葉が意味するものを理解した瞬間、身体の奥が一気に熱くなる。

 長谷川さんは、気づいていたんだ。

 私が彼の手を目で追っていたこと。
 触れられるたび、どうしようもなく意識していたこと。

 それだけじゃない。
 彼もまた、私を見ていた。

 そんなこと、考えたこともなかった。
 
 だって長谷川さんは、誰からも好かれる人だから。
 皆の憧れみたいな人が、まさか私なんかを見ているなんて。

「ずっと触ってほしそうな顔してたよね。根室さん」

 低く甘い声と一緒に、彼の指先が今度は私の唇へ触れる。

「ぁ…」

 下唇をなぞるように柔らかく指が滑った。それだけで背筋がぞくりと震える。
 長谷川さんはそんな私を見て、満足そうに目を細めた。

「俺の手、そんなに好き?」

 答えられない。
 答えられるわけがない。

 でも沈黙そのものが肯定みたいで、彼は小さく笑った。

「…じゃあ、このまま捕まってくれるかな?」

 そう囁きながら、彼の手が私の手首をそっと包み込む。優しいのに、逃がす気なんて微塵も感じさせない掴み方だった。大好きなその手を、もちろん私は振り払うことができない。
 
 むしろ、もっと触れてほしいとさえ思ってしまった。
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