彼の手『だけ』を見ていた私は、
 スカートが床に広がるのも構わず、そのまま熱を逃がすように小さく身体を縮める。顔が、信じられないくらい熱かった。

 やってしまった。
 長谷川さんの前で、こんな声まで漏らして。

 呆れられただろうか。
 気持ち悪いと思われただろうか。

(ほんと、最悪…)

 怖くて顔を上げられないまま俯いていると、不意にくすりと低い笑い声が落ちてきた。

「…ふふっ」

 静かなコピー室に、その声だけがやけに近く響く。

 驚いて顔を上げると、長谷川さんは私に目線を合わせるようにゆっくり腰を落としていた。彼が浮かべるのは、いつもの爽やかな笑顔ではなかった。どこか楽しそうでありつつも少し意地悪な、秘密を握った子供みたいな顔。

「本当に、俺の手が好きなんだな」
「…え?」

 心臓がどくりと跳ねた。

 何を言われたのか理解できなくて、間抜けみたいに目を瞬かせる。
 けれど、長谷川さんは逃がさないように私を見つめたまま、ゆっくり口元を緩めた。

「あ、あの……それは……」
「気づいてないとでも思ってた?」

 優しい声音なのに、逃げ道だけ綺麗に塞がれていく。喉が引き攣って、うまく言葉にならない。
 そんな私を見て、長谷川さんはますます可笑しそうに目を細めた。

 そして、あの手がゆっくり私へ伸びてくる。

 ずっと見てしまっていた綺麗な手。大きくて骨ばっていて、指先まで品のある手。その手が私の頬に優しく触れた。
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