土俵の外の恋
それから弥生は再び台所に立ち、流しにお湯を溜めて、静かに洗い物を始めた。濡れたスポンジで器を優しく洗い、ふわりと立つ泡をゆっくりと流しては、きれいになったものから順に水切りかごへと並べていく。愛斗はそんな彼女の後ろ姿を、部屋の隅に腰を下ろし、柔らかな笑みを浮かべながら、ただじっと眺めていた。つい先ほどまで涙に濡れ、頬には痛々しいあざを抱えていた顔が、今では心の底から幸せそうにほころんでいる。
その様子を見ているだけで、胸の奥がじんわりと温かく満たされていくのを感じた。
やがてすべての洗い物が終わり、流し台までピカピカに磨き上げて、弥生がこちらを振り向くと、愛斗はゆっくりと立ち上がり、彼女のもとへと歩み寄った。そっと両手を取り、指先から伝わるぬくもりを確かめるように、柔らかく握りしめる。
「洗い物までしてくれて、ありがとうございます。弥生さんがここに来てくれて、ただそばにいてくれるだけで、この部屋がこんなにも暖かく、幸せで満たされた場所になるなんて、僕は夢にも思っていませんでした」
弥生は握られた手をぎゅっと握り返し、柔らかく目を細めて笑みを浮かべた。夕暮れのオレンジ色の光が、彼女の髪や頬を優しく照らし出す。
「私もよ、愛斗くん。ここに来るまで、こんなに穏やかで幸せな時間が自分にも訪れるなんて、少しも想像できなかった。あなたに出会えて、こうして心から笑える日が来て、本当に良かった……心の底からそう思ってるの」
窓の外では空がゆっくりと夜の色を帯び始め、部屋の中には二人だけの柔らかな空気がゆっくりと流れていた。言葉を交わさなくても、お互いの鼓動とぬくもりが、何よりも確かな想いを伝えてくれる。
愛斗はゆっくりと顔を近づけ、柔らかく唇を重ねた。触れ合うだけの優しい口づけは、互いの心を溶かし合うように、長く、そして深く続いた。それから順番にお風呂に入り、湯船に身を沈めて一日の疲れと心のわだかまりを洗い流し、体の芯までぽかぽかと温まった。
清潔なシーツの敷かれたベッドに二人で身を横たえると、すぐに体を寄せ合い、また唇を重ねた。
柔らかな肌の感触と、甘くとろけるような吐息が、部屋の空気をさらに熱く染め上げていく。キスを何度も交わしながら、愛斗は弥生の体をしっかりと抱きしめ、耳元で囁いた。
「弥生さん……あなたを、この腕の中に抱きしめて、自分のものにしたい。それでもいいですか?」
弥生は頬を紅く染め、瞳を潤ませながら、ゆっくりと頷いた。

「ええ……いいわ。愛斗くん、私のすべてをあなたにあげる」
了承の言葉を聞いた瞬間、愛斗はそっと体を重ね、優しく覆いかぶさった。何度も柔らかく唇を重ねながら、一つ一つゆっくりと服を脱がせ、傷ついた肌を愛おしむように、やさしく手のひらで包み込んだ。互いの体が一つになる瞬間、弥生は今まで感じたことのない深い愛情に包まれ、愛斗もまた、長い間心に秘めていた想いがすべて満たされていくのを感じた。体を重ねるたびに、心もまた一つに結ばれ、この上ない幸せが二人を満たしていった。
すべてが終わり、二人は再び体を寄せ合って抱きしめ合い、柔らかなシーツの中で互いの体温を感じながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
夜中、ふと愛斗は目を覚ました。
カーテンの隙間から漏れる月明かりが、弥生の寝顔を柔らかく照らし出している。
すやすやと安らかに眠る彼女の髪を、愛斗はそっと指でなでた。まだわずかに残る頬のあざも、自分の腕の中で安心しきって眠る様子も、すべてが愛おしくてたまらない。
この人は、俺のものになったんだ。
心の中でそっと囁き、愛斗は幸せで胸がいっぱいになった。
どんな困難がこれから待ち受けていようとも、この腕の中にいる人だけは、絶対に誰にも渡さない。もう二度と悲しい思いも、痛い思いもさせない。そう心に固く誓い、愛斗は弥生をそっと抱き寄せ、また深い眠りへと落ちていった。 
月明かりの下、二人だけの静かな夜が、いつまでも続いていくようだった。
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