土俵の外の恋
朝になり、柔らかな光がカーテンの隙間から差し込んで、二人はゆっくりと目を覚ました。
「おはよう、弥生さん」
「おはよう、愛斗くん」
顔を合わせて笑い合い、簡単に身支度を整えると、二人は台所に立って、用意しておいた菓子パンをテーブルに並べた。コーヒーを淹れて、向かい合って座り、他愛もない話をしながらゆっくりと朝ごはんを食べる。それから昼過ぎまで、ソファに並んで腰を下ろし、テレビを見たり、これからの暮らしのことを話したりして、時間をゆっくりと過ごした。
ふと時計を見て、愛斗は立ち上がった。
「弥生さん、そろそろ出かけましょう。これから一緒に住むんだから、生活に必要なものを色々揃えていきたいんです」
「そうだね、楽しみだな」
「うん、たくさん見て、好きなものを選んでくださいね」
二人は家を出て車に乗り、最初に向かったのは100円ショップだった。暖簾をくぐって店内に入ると、壁一面に並べられた商品の数々に、弥生は目を丸くして辺りを見回した。まずは台所用品のコーナーに行き、色とりどりの食器やカトラリーを手に取っては、「これ可愛いね」「こっちは使いやすそう」と言いながら、カゴの中へと次々に入れていく。続いて寝室用のコーナーへと進み、枕カバーやシーツ、クッションカバーなども、二人で相談しながら選んでいった。

一通り生活必需品を見て回ったところで、愛斗がふと思い出したように言った。
「弥生さん、自分でほしいものはないですか? 好きなもの、何でも言ってくださいね」
「そうだね……そういえば、ヘアアクセサリーがほしいな」
「じゃあ、こっちのコーナーにたくさんありますよ。案内しますね」
愛斗に手を引かれてヘアアクセサリーの棚の前に立つと、色とりどりのゴムやピン、カチューシャなどがぎっしりと並んでいて、弥生はわくわくしたような表情で一つ一つ手に取って眺めた。ふと、淡いピンクの花柄がついたゴムを手に取り、目を輝かせて言う。
「これ、すごく可愛い!」
「弥生さんにとてもよく似合うと思いますよ」
「そうかな、ありがとう。……あれ? これいくらするんだろう? 値札がついてないみたい。付け忘れなのかな? 店員さんに聞いてみないとね」
弥生が不思議そうに首を傾げると、愛斗は柔らかく笑って言った。
「弥生さん、これは全部100円ですよ」
「え? こんなに可愛いのが100円なの?」
「はい、このお店に売ってるほとんどのものが、全部100円なんです」
弥生は目を丸くして、驚きを隠せない様子だった。自分の知らない世界がそこにあるようで、ただただ感心するばかりだ。気に入ったヘアゴムを何種類も手に取り、カゴに入れていく。
会計を済ませてレジを出ると、合計金額が1660円だったことにも、弥生はまた驚いた。こんなにたくさん買ったのに、こんなに安く済むなんて――と、まだ信じられないような顔をしている。
車に乗り込んで、シートに腰を下ろすと、弥生はぽつりとつぶやいた。
「こんなに安く色々買えるなんて、すごいね」
「弥生さん、もしかしてこういうお店に来たことがないんですか?」
「うん、ないよ。そもそも自分で買い物をすること自体、ほとんどなかったから」
愛斗はその言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ痛んだ。彼女がこれまでどんな暮らしをしてきたのか、少しずつ見えてくるようで、それと同時に、これからは自分が彼女にたくさんの新しい世界を見せていきたい、という思いが強くなった。
「そうだったんですね。だったらこれからは、弥生さんを色んなところに連れて行きます。たくさんの楽しいこと、嬉しいこと、一緒に体験していきましょうね」
「ありがとう、愛斗くん。とっても嬉しい」
柔らかく笑い合い、車を発進させて次の目的地へと向かった。今度は衣料品店に入り、二人で着る服や、肌に触れる下着まで、お互いに似合うと思うものを選び合って、会計を済ませた。
店を出て、再び車に乗り込んだところで、愛斗がにっこりと笑って言った。
「そういえば弥生さん、甘いものを食べに行きませんか? 今日はたくさん歩いて疲れたでしょう? 甘いもので休憩しましょうよ」
「行く! ぜひ行きたい」
「決まりですね。何が食べたいですか? ケーキ? パフェ? それとも他のもの?」
「うーん……ホットケーキが食べたいな」
「ホットケーキですね、わかりました。じゃあ美味しいホットケーキのお店に行きましょう」
「うん、楽しみ!」
二人は手をつないで、甘い香りと幸せな時間が待っているお店へと、ゆっくりと車を走らせていった。
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