土俵の外の恋
車を走らせること二十五分、やがて目的のパンケーキ屋の看板が見えてきた。 
駐車場に車を停め、店の暖簾をくぐると、甘い香りがふわりと二人を包み込んだ。空いている席に腰を下ろし、メニューを開いては「これもおいしそう」「あっちもいいね」と顔を寄せ合い、それぞれ好みの品を注文する。
他愛もない話に花を咲かせながら待っていると、やがてふっくらと焼き上がったパンケーキが運ばれてきた。
ふわりと立ち上る湯気と甘い匂いに思わず笑みがこぼれ、皿を前に写真を撮り、弥生のはにかんだ笑顔も何枚もシャッターに収めた。
「このホットケーキ、すっごくおいしいね」
「うん、ふわふわで口の中でとろけるみたいだ」
二人はゆっくりと味わい、熱いコーヒーをすすりながら、時間を忘れて語り合った。食事を終えて会計を済ませ、車に乗り込むと、帰り道も笑い声が絶えることはなかった。
家に着くと、早速百円ショップで買い込んだ荷物を広げる。
食器は一つ一つ丁寧に洗って水気を拭き、棚の定位置に並べ、シーツや枕カバー、小物たちも使いやすいように整理して収めた。
一緒に暮らすための準備が少しずつ整っていく様子が嬉しくて、何度も顔を見合わせて笑い、気がつけば体が寄り添い、柔らかく唇を重ねた。
それからは、ふたりだけの時間をゆっくりと過ごした。ソファに並んで座り、テレビを見たり、これからの暮らしのことをあれこれと話したり、ただ何も言わずに寄り添っているだけでも、胸の奥が温かく満たされていくようだった。
やがて外が暗くなり、夕暮れの光が部屋の中を柔らかく染める頃、弥生は台所に立って夕食の支度を始めた。
ジュージューと肉の焼ける音が心地よく響き、部屋の中にはトマトと玉ねぎの甘い香りが広がる。テーブルに並んだのは、こんがりと焼き色のついたハンバーグに、シャキシャキの生野菜をたっぷりのせたサラダ、そしてとろりと甘いコーンスープ。
二人は手を合わせて「いただきます」と声を重ね、向かい合って箸を進めた。
「弥生さん、このハンバーグ、本当においしいです。お店で食べるより何倍もおいしい」
「ありがとう、愛斗くん。気に入ってもらえてよかった。おかわりもたくさんあるから、遠慮しないで食べてね」
「ありがとうございます、弥生さん。じゃあ遠慮なくいただきます」
愛斗は二つ目のハンバーグも嬉しそうに頬張り、弥生はそんな彼の様子を見つめながら、自分でも気づかないうちに笑顔が増えていることを感じていた。
食事も終わり、後片付けも済ませてほっと一息ついたとき、弥生は一日ぶりにスマートフォンを手に取った。
画面をつけると、五郎という名前の人物から不在着信が五十六件も入っているのが目に飛び込んできた。
心臓がどきりと跳ね、表情が曇るのを隠せないまま、弥生は愛斗に画面を見せ、これまでのことをゆっくりと話して聞かせた。
愛斗は黙って彼女の言葉に耳を傾け、そっと手を取って「大丈夫、俺がついてるから」と柔らかく言ってくれた。
それから順番にお風呂に入り、一日の疲れを洗い流した。
温かい湯船に浸かっている間も、弥生の心には五郎のことがちらついたが、愛斗の存在がそれを優しく包み込んでくれるようだった。
二人はベッドに入り、柔らかな照明の下で見つめ合い、ゆっくりと唇を重ねた。弥生が愛斗の首に腕を回して体を寄せ、彼の名前をそっと呼ぶと、愛斗は優しく抱き寄せ、ゆっくりと体を重ねていった。お互いの体温と鼓動が一つになり、不安な気持ちも悲しい思いも、すべてが今この瞬間の幸せに溶けて消えていくようだった。
愛し合い、体を寄せ合ったまま、二人はゆっくりと眠りに落ちていった。外では夜風が木々を揺らしていたが、この部屋の中だけは、柔らかな幸せと安らぎに満ちていた。
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