箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 電光掲示板の得点が塗り替わるたびに一喜一憂していると、ついに、スピーカーから新那の心臓を大きく跳ね上がらせるアナウンスが流れた。

『――プログラム第六番、女子、借り物・借り人競走。出場選手は、出発係の元へ集まってください』
「キタキタキタ! 新那ちゃん、私達の出番だよ!」

 莉子がガタッと椅子を蹴立てて立ち上がり、新那の手を引いた。

「うん……っ! 行こう!」

 新那は緊張でごくりと唾を飲み込みながらも、額の青い鉢巻を指で触り、莉子と共にグラウンドの中央へと歩き出す。
 ふと振り返ると、定位置に残されたアールが、周囲の喧騒に紛れ込ませるような低い、けれどよく通る声で、新那にだけ聞こえるようにぽつりと言った。

「――お嬢。武運を。周囲の障害物(人間)には十分注意してください」
「ふふ、大丈夫。行ってきます!」

 新那はアールに小さく手を振ると、莉子と並んでスタートラインへと向かった。
 目の前には、運命のお題の紙が入ったいくつかの箱が並んでいる。
 普通の女子高生として、皆の中に混ざって走る初めての競争。新那の胸のワクワクした高鳴りは、初夏の太陽よりも熱く、激しく、その鼓動を刻み始めていた。

「第一走者の皆は各レーンに並んで下さーい」

 体育委員の生徒の指示に従い、新那は四レーンの内の三レーン目に並ぶ。
 背後から熱い視線を感じた。振り返れば、四走目として地面の上に体育座りをして期待の眼差しを向ける莉子がいる。

「がんばれー! 新那ちゃーん!」

 いつだってどんな時だって、莉子は周りの目など気にせず笑っている。
 新那には、そんな彼女の底しれない明るさと笑顔の眩しさが羨ましかった。
 声にはしないけれど手を振って声援に答え、再び前を見る。
 そして、拡声器によって開始を合図する声がグラウンド中に響き渡った。

――位置について。よーい。

 パーンッ!!

 スターターピストルの乾いた音が青空に響くと同時に、新那は勢いよく地面を蹴り出した。
 グラウンドを駆ける風が、結い上げたポニーテールを激しく揺らす。
 周囲からの大歓声が耳の奥で遠くなり、新那の視線は、トラックの中央に等間隔で設置された白い机――そこに置かれた、運命の紙が入った箱だけを見つめていた。
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