箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい



――パンッ、パンパンッ!!

 雲一つない五月の青空に、体育祭の開幕を告げる号砲が小気味よく鳴り響いた。
 それと同時に、グラウンドを埋め尽くした全校生徒から、地鳴りのような大歓声が湧き起こる。

「うわぁ……! すごい、すごすぎるっ!」

 クラスごとに色分けされたテントがずらりと並ぶ応援席。その最前列で、新那はパイプ椅子から身を乗り出し、グラウンドを見渡して目を輝かせていた。
 巨大なスピーカーから流れるアップテンポなBGM、風にたなびく色とりどりの学級旗、メガホンを叩く乾いた音。
 テレビの画面越しに見ていたあの熱気が、今、三六◯度の立体音響となって新那の全身を包み込んでいる。

「でしょでしょ!? これが体育祭だよ、新那ちゃん!」

 隣の席の莉子が、青色のメガホンを両手に持ってわいわいと笑う。
 新那とお揃いの高めポニーテールが、彼女が跳ねるたびに元気よく揺れていた。

「もうね、今日だけは勉強のことなんか全部忘れて、大騒ぎしたもん勝ちなんだから! あ、見て見て、あそこで他クラスの男子が謎のダンス踊ってる!」
「本当だ……っ、あはは! 何あれ、面白い!」

 二人は顔を見合わせ、お腹を抱えて笑い合う。
 新那のすぐ後ろの席には、これまた驚くほど体操服の似合うアールが、微動だにせず椅子に座って控えていた。
 彼は周囲の狂乱に巻き込まれることなく、その瞳でグラウンドと新那のバイタルを淡々と監視している。そのいつもの過保護な佇まいすら、今の新那には愛おしい体育祭の景色の一部だった。
 やがて、最初のアナウンスが響き渡り、いよいよ最初の種目が始まった。

『プログラム第一番――、男子、大玉転がし!』
「がんばれー!! いけいけー!!」

 新那は莉子に習って、手渡された青いメガホンを握り締め、声を限りにグラウンドへ声援を送った。
 クラスの男子二人が、自分達の背丈ほどもある大玉を必死に転がしていく。
 皆が一つになって、ただ走る誰かのために叫んでいる。その一体感が、新那の胸をどうしようもないほど熱くさせた。


 続いて始まったのは、全学年合同の『玉入れ』だ。
 籠の周りに群がった生徒達が、一斉に白い玉を空へと放り投げる。
 青空に無数の白い点が描かれる光景はまるで絵画のようで、新那は「綺麗……」と思わずうっとり見惚れてしまった。


 そして、ホームルームであれほど揉めていた『綱引き』。
「オーエス! オーエス!」という地を這うような掛け声に合わせ、クラスの仲間達が文字通り顔を真っ赤にし、泥に塗れながら一本の太い綱を引っ張り合う。

「皆、がんばって……っ! あと少し! あと少し引いて!」

新那はいつの間にか椅子の前に立ち上がり、メガホンを握る手に力を込めて叫んでいた。
 家庭教師の先生と勉強していた静かな部屋では、絶対に、一生出すことのなかった大きな声。喉が少しヒリつくけれど、それがたまらなく誇らしくて、楽しかった。
 一進一退の攻防の末、B組のロープがぐっと自陣に引き込まれ、ピーッ! と審判のホイッスルが鳴る。

「やったぁぁぁ! 勝ったぁぁ!」

 莉子と抱き合って飛び跳ねる。
 後ろを見ると、アールが静かに「お嬢の応援による音響効果が、クラス男子の筋出力を一時的に十二%向上させたと推測される」と大真面目な顔で拍手を送ってくれていた。
 いくつもの種目が熱狂のうちに駆け抜けていき、グラウンドの砂埃が太陽の光にキラキラと反射する。
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