箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
毎日、朝から晩まで一緒にいるからだろうか。
以前の彼女なら気づかなかったような微細な表情の変化に、今の新那は驚くほど敏感になっている。
「ねぇ、最近さ」
ぽつりと、新那が言葉を落とす。
「零、私に何か隠し事してない?」
その瞬間、零の胸のコンポーネントが、ぎりりと嫌な音を立てて軋んだ。
もちろん、彼の身体に本物の心臓なんて存在しない。それでも、そう表現する以外にないほどの痛烈な衝撃が、胸の奥を走った。
「……隠し事など何もしていないが。お嬢の気のせいじゃないか」
嘘だった。
また、嘘を重ねてしまった。
最近、こういうシステム外の処理が明らかに増えている。
孝允の警告のことも、自分が壊されるかもしれない恐怖も、全部伝えてしまえば新那が傷つく。
彼女に余計な心配をさせたくない、ただ笑っていてほしい――その身勝手な目的のためだけに、彼は人間に近づくための機能を使って、完璧な嘘を吐く。
新那は、しばらく何も言わずに零の顔を見つめていた。
やがて、
「……そっか」
と、小さく微笑む。
「ならいいんだけど」
完全に信じたわけではないのだろう。それは零にも分かった。けれど、新那はそれ以上、無理に追及しようとはしなかった。
その彼女の優しさが、嘘を吐いた零の胸を余計に締め付けるように痛ませる。
「ねえ、零」
カチ、カチ、と教室の後ろの時計が、静かに、けれど確実に未来へ向かって時を刻んでいる。
文化祭まで、あと三週間。
薄紫色の夕闇が降りていく教室の中で、零はもう一度窓の外を見つめた。
「無理しちゃ駄目だよ?」
この、なんてことのない当たり前の放課後に、新那と他愛もないお喋りをして。
クラスの連中とくだらないことで笑い合って。
文化祭の準備をして。
そんな普通の日々が、今の零にとっては、どうしようもないほど愛おしくて、大切で。
――だからこそ、失うことが、怖くてたまらない。
「ただの道具」として作られ、「人間になりたい」と願ったあの日から。
零は生まれて初めて、決められた期限の先にある、自分の「未来」を心の底から願うようになっていた。
以前の彼女なら気づかなかったような微細な表情の変化に、今の新那は驚くほど敏感になっている。
「ねぇ、最近さ」
ぽつりと、新那が言葉を落とす。
「零、私に何か隠し事してない?」
その瞬間、零の胸のコンポーネントが、ぎりりと嫌な音を立てて軋んだ。
もちろん、彼の身体に本物の心臓なんて存在しない。それでも、そう表現する以外にないほどの痛烈な衝撃が、胸の奥を走った。
「……隠し事など何もしていないが。お嬢の気のせいじゃないか」
嘘だった。
また、嘘を重ねてしまった。
最近、こういうシステム外の処理が明らかに増えている。
孝允の警告のことも、自分が壊されるかもしれない恐怖も、全部伝えてしまえば新那が傷つく。
彼女に余計な心配をさせたくない、ただ笑っていてほしい――その身勝手な目的のためだけに、彼は人間に近づくための機能を使って、完璧な嘘を吐く。
新那は、しばらく何も言わずに零の顔を見つめていた。
やがて、
「……そっか」
と、小さく微笑む。
「ならいいんだけど」
完全に信じたわけではないのだろう。それは零にも分かった。けれど、新那はそれ以上、無理に追及しようとはしなかった。
その彼女の優しさが、嘘を吐いた零の胸を余計に締め付けるように痛ませる。
「ねえ、零」
カチ、カチ、と教室の後ろの時計が、静かに、けれど確実に未来へ向かって時を刻んでいる。
文化祭まで、あと三週間。
薄紫色の夕闇が降りていく教室の中で、零はもう一度窓の外を見つめた。
「無理しちゃ駄目だよ?」
この、なんてことのない当たり前の放課後に、新那と他愛もないお喋りをして。
クラスの連中とくだらないことで笑い合って。
文化祭の準備をして。
そんな普通の日々が、今の零にとっては、どうしようもないほど愛おしくて、大切で。
――だからこそ、失うことが、怖くてたまらない。
「ただの道具」として作られ、「人間になりたい」と願ったあの日から。
零は生まれて初めて、決められた期限の先にある、自分の「未来」を心の底から願うようになっていた。