箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 それなのに、現実はどうだ。
 新那の隣(正確には三メートル後ろ)にいるのは、友達でも、クラスメイトでも、生身の人間ですらない。
 父親が送り込んできた、感情のパラメータがゼロのアンドロイドだ。

「……最悪」

 押し殺した声で、心の底からの本音が零れ落ちる。

「警告。お嬢の生体バイタルに異常を検知。精神的ストレス、または体調の優れない可能性が八十七%です」

 新那の呟きを、彼の高性能な集音マイクが聞き逃すはずもなかった。
 R-01は一歩足を進め、無表情のまま問いかけてくる。

「体調は、悪くない」
「否定を検出しましたが、網膜スキャンによる毛細血管の拡張、および顔色の輝度低下を確認。医療班への要請を推奨します」
「そういう物理的な意味じゃないの! 私の気分の問題!」
「気分の問題……当機のAIログに対象のデータが存在しません。理解不能。申し訳ありません、お嬢」

 彼は淡々と頭を下げるが、その声には一切の申し訳なさが含まれていない。だってロボットなのだから。
 新那はもう、怒る気力すら失って、本日最大級の深い溜息を吐いた。

「もういい……。行くよ」
「了解。防衛プロトコルを再開します」

 新那が再び歩き出すと、背後から寸分の狂いもなく、あの足音が追従してきた。
 一定の距離。一定の速度。
 生身の人間なら、歩いていれば衣擦れの音や、不規則な呼吸の音が聞こえるはずなのに、彼は呼吸すらしていない。
 ただ、冷徹な機械の駆動音だけが、桜の舞う通学路に響いている。
 輝かしいはずの高校生活、初日。
 そのスタートラインは――新那が何千回も夢見ていたものとは、あまりにも、あまりにもかけ離れた方向へと暴走を始めていた。
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