箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 頭が痛い。割れるように痛い。
 父親の過保護が、質量を持って物理的に自分の健康を害し始めているのを感じる。

「……一応確認するけど、学校の敷地の中にも、入ってくるんだよね?」
「はい。当然です」
「同じ教室に、いるの?」
「はい。すでにお嬢の座席の後ろ、あるいは隣の席を確保するよう、学園のデータベースおよびクラス編成プログラムを書き換え済みです」
「はあ!? 書き換えたって何!? ……じゃあ、授業中も?」
「はい。お嬢の斜め後方より、不審者の接近を警戒いたします」
「休み時間も?」
「はい。お嬢の周囲1.5メートル以内に男子生徒が接近した場合、即座に排除行動へと移行できるよう、待機状態を維持します」
「お昼休みも!?」
「はい。お嬢が栄養を摂取する際、毒物が混入されるリスクを排除するため、検食を行います」
「帰り道も!?」
「はい。現在と同じく、三メートルの車間距離――失礼、対人距離を維持し、邸宅まで随行いたします」

 全部だった。
 最初から最後まで、新那のタイムスケジュールはすべて、この機械の少年によって埋め尽くされていた。逃げ場など、最初から何処にも用意されていなかったのだ。
 新那はがっくりと肩を落とし、雲一つない五月晴れの青空を見上げた。
 何処までも高く、澄み切った青。
 風に舞う桜の花びらがピンク色のアクセントを添えている。
 客観的に見れば、これ以上ないほどの絶好の「入学式日和」だ。
 なのに、新那の心の中だけには、今にも雷を落としそうな分厚い雨雲がどんよりと立ち込めていた。
 高校生になったら。
 一人で、ちょっと緊張しながら通学路を歩いて。
 勇気を出して、隣り合った女の子に「おはよう」って声をかけて。
 放課後には、買いたてのスマートフォンでお互いの連絡先を交換して、寄り道をして。
 そんな、どこにでもある当たり前の日常を、新那は中学の三年間、ずっと夢に見ていた。
 いつか仲良くなった友達と、この並木道を横並びになって歩くのだと信じて疑わなかった。
 今日あった面白い話をしながら。くだらないことでお腹を抱えて笑い合いながら。
 不自由だった日々の全てを取り戻すような、眩しい「青春」を過ごすのだと。
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