箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 見上げた校門の先には、春の柔らかな日差しを浴びて白く輝く、真新しい校舎がそびえ立っていた。
 青空に映えるコンクリートの白。広大なグラウンドの向こうからは、すでに朝練を始めている運動部の小気味よい掛け声と、砂を蹴る音が風に乗って聞こえてくる。
 校門の前に設置された『入学式』と書かれた大きな看板の周りには、緊張と期待を顔に張り付かせた新入生達が、長い列を作って記念撮影をしていた。
 本来ならば、新那もその列の最後尾に並び、胸を高鳴らせながら校門を潜っていたはずだった。

「……はぁ」

 けれど、新那の口から漏れたのは、本日何度目になるかも分からない小さな溜息。
 原因は、今さら言うまでもない。背後からまったく狂いなく聞こえてくる、あの足音だ。
 コツ。
 コツ。
 コツ。
 一定の間隔。一定の速度。一定のリズム。
 まるで心臓の鼓動を機械に置き換えたかのような、メトロノームみたいに正確な音。
 そのあまりの徹底ぶりに耐えきれなくなり、新那はついに足を止め、背後を振り返った。

「ねえ、アール」

 新那がそう声をかけると、三メートル後ろにいた黒髪の少年は、僅かに首を傾げた。
 その動作すら、計算されたサーボモーターの動きのように滑らかだ。

「――『アール』。それは、当機、すなわち私を指す固有名詞(インデックス)でしょうか」
「貴方以外に、ここに誰がいるの」
「状況の確認です。(マスター)からの命令を誤認するリスクを排除するためのプロトコルですので、ご容赦を」

 何処までも至って真面目な、感情の起伏がゼロの返答だった。
 新那は思わず片手で額を押さえる。

「R-01だから、略して『アール』。これなら学校で私が呼んでも、ギリギリ不自然じゃないでしょ? 分かった?」
「理解しました」

 少年――アールは、小さくスマートに頷いた。

「脳内メモリの登録ネームを『R-01』から『アール』へと書き換え完了。以後、その呼称に第一優先度で反応します」
「……うん、そうして」

 もっとこう、普通の男の子みたいな「了解!」とか「分かった」という返事はできないのだろうか。
 しかし、相手は最先端技術の結晶であるロボットだ。生身の人間らしい情緒を期待するだけ無駄というもの。
 新那は早くも諦めて前を向く。

「行くよ、アール」
「承知しました、お嬢」

 一歩、校門を潜る。それだけの動作なのに、新那の心臓はトクンと小さく跳ねた。
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