箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 それでも、こうして莉子という、優しくて面白い友達ができた。
 クラスの雰囲気だって、決して悪くない。
 アールという特大の爆弾を抱えてはいるけれど、この高校生活、案外なんとかなるのかもしれない。

(……ううん、絶対になんとかしてみせる)

 そんな前向きな予感が、新那の胸に小さな光を灯していた。

「――ねえねえ、新那ちゃん」

 不意に、隣の席から小さく、ひそひそとした囁き声が聞こえた。
 見てみると、莉子が教科書で顔を隠しながら、くりくりとした目をさらに輝かせてこちらを見つめている。

「ん?  何、莉子ちゃん」
「今日の放課後さ、もしよかったら、一緒に『学校探検』しない?  新しい校舎、何処に何があるか見て回りたいんだよね!」

 莉子の顔は、まるで遠足前夜の子供のように、純粋なワクワク感でいっぱいだった。

「――いいね」

 新那の口からは、迷うことなく、自然な言葉が溢れ出ていた。

「うん、行こう! 私もこの学校のこと、もっとたくさん知りたいし!」
「やったぁ!」

 莉子は声を抑えながら、胸の前で小さくガッツポーズを作って喜んだ。その無邪気な様子が可笑しくて、新那もつられて小さく笑ってしまう。
 楽しい。本当に、楽しい。
 こういうのだ。これこそが、ずっと欲しくて堪らなかった日常のひとコマ。
 友達と、授業中にちょっとだけ不真面目な内緒話をして。
 放課後の約束に胸を弾ませて、笑い合って。
 一緒に誰もいない知らない廊下を歩いて。
 そんな、ありふれているけれど奇跡のような「青春」。私はようやく、その入り口に立つことができたのかもしれない。
 ――本気で、そう思った。まさにその瞬間だった。

「――了解。放課後の行動予定をログに登録。これより、護衛対象の『校内安全調査(ロケハン)』、及び全経路の不審物・退路の確認を開始します」

 真後ろの席から、ミュートを解除したアールの冷徹かつ無機質な声が響いた。
 トスン、と、新那はそのまま、音を立てて自分の机へと力なく突っ伏した。
 前言撤回。やっぱり、何ひとつなんとかなる気がしない。
 ただの楽しい学校探検を、ガチのテロ警戒任務に変換しようとする最強のボディーガードの背中を感じながら、新那は迫り来る放課後の波乱に、心の中でそっと白旗を上げるのだった。
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