箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
初めてのホームルームが静かに幕を閉じる頃、大きな窓の向こうに広がる景色は、ゆっくりと、けれど確実にその色彩を融かし始めていた。
春の日は、冬に比べればずいぶんと長い。それでも夕刻が近づけば、真新しい白い校舎の影はぐんぐんと地面へ伸び、放課後の訪れを告げていた。
教室を出た新那は、廊下へ一歩踏み出し、小さく胸を弾ませながら辺りを見回した。
あちこちの教室から、まだ少し遠慮がちで、けれど弾けるような笑い声が聞こえてくる。
「見学どこ行くー?」とパンフレットを片手に小走りしていくジャージ姿の生徒達。
「また明日ね!」と手を振り合いながら、早くも出来上がったグループで固まって昇降口へと向かう生徒達。
ただその光景を眺めているだけで、新那の胸の奥には、じんわりとした温かい喜びが広がっていった。
(私も今、この特別な空間の一部になれているんだ……)
ずっと画面越しに、あるいは想像の中でしか触れられなかった「普通の放課後」が、今、確かに自分の五感のすぐ傍に存在している。その事実だけで、朝の絶望が嘘のように消えていく気がした。
「新那ちゃーーん! お待たせ!」
廊下の向こうから、そんな感傷を吹き飛ばすようなやけに元気な声が飛んできた。
人混みをすり抜けるようにして、莉子が猛烈な勢いで駆けてくる。
入学初日の緊張など、最初からどこにも存在していなかったかのようなエネルギーの塊だ。
「学校探検、予定通り決行するんでしょっ!?」
「うん、するする。行こう!」
「よーし、そうこなくっちゃ!」
莉子は小さな拳を顔の前でぎゅっと握り締めた。
「高校の校舎って、中学と違って迷路みたいに広いからね! 先輩達の縄張りに迷い込まないように注意しなきゃ!」
「ふふっ、なんだか本当に冒険みたいで楽しみだなぁ」
新那が屈託のない笑みを零した、その時だった。
「――了解。これより、未知の領域における隠密随行、および校内調査を開始します。俺も同行します」
新那のすぐ背後から、一切の気配もなく、あの鼓膜に直接響くような機械的な美声が割り込んできた。
二人は同時に、息を合わせてロボットのように硬直して振り返った。
そこには当然のように、制服のブレザーを寸分の乱れもなく着こなしたアールが、直立不動の姿勢で佇んでいる。
「あれ、神条君も一緒に来るの?」
莉子は不思議そうに、栗色の髪の毛を揺らしながら首を傾げた。
「はい。お嬢――失礼、新那の身の安全を確保するための、護衛任務の一環です」
「へぇー! 神条君ってば、中二病の設定を放課後まで崩さないなんて、プロ意識(?)高めなんだね! すっごい!」
莉子はポンと手を叩いて、キラキラした目でひどく納得していた。
春の日は、冬に比べればずいぶんと長い。それでも夕刻が近づけば、真新しい白い校舎の影はぐんぐんと地面へ伸び、放課後の訪れを告げていた。
教室を出た新那は、廊下へ一歩踏み出し、小さく胸を弾ませながら辺りを見回した。
あちこちの教室から、まだ少し遠慮がちで、けれど弾けるような笑い声が聞こえてくる。
「見学どこ行くー?」とパンフレットを片手に小走りしていくジャージ姿の生徒達。
「また明日ね!」と手を振り合いながら、早くも出来上がったグループで固まって昇降口へと向かう生徒達。
ただその光景を眺めているだけで、新那の胸の奥には、じんわりとした温かい喜びが広がっていった。
(私も今、この特別な空間の一部になれているんだ……)
ずっと画面越しに、あるいは想像の中でしか触れられなかった「普通の放課後」が、今、確かに自分の五感のすぐ傍に存在している。その事実だけで、朝の絶望が嘘のように消えていく気がした。
「新那ちゃーーん! お待たせ!」
廊下の向こうから、そんな感傷を吹き飛ばすようなやけに元気な声が飛んできた。
人混みをすり抜けるようにして、莉子が猛烈な勢いで駆けてくる。
入学初日の緊張など、最初からどこにも存在していなかったかのようなエネルギーの塊だ。
「学校探検、予定通り決行するんでしょっ!?」
「うん、するする。行こう!」
「よーし、そうこなくっちゃ!」
莉子は小さな拳を顔の前でぎゅっと握り締めた。
「高校の校舎って、中学と違って迷路みたいに広いからね! 先輩達の縄張りに迷い込まないように注意しなきゃ!」
「ふふっ、なんだか本当に冒険みたいで楽しみだなぁ」
新那が屈託のない笑みを零した、その時だった。
「――了解。これより、未知の領域における隠密随行、および校内調査を開始します。俺も同行します」
新那のすぐ背後から、一切の気配もなく、あの鼓膜に直接響くような機械的な美声が割り込んできた。
二人は同時に、息を合わせてロボットのように硬直して振り返った。
そこには当然のように、制服のブレザーを寸分の乱れもなく着こなしたアールが、直立不動の姿勢で佇んでいる。
「あれ、神条君も一緒に来るの?」
莉子は不思議そうに、栗色の髪の毛を揺らしながら首を傾げた。
「はい。お嬢――失礼、新那の身の安全を確保するための、護衛任務の一環です」
「へぇー! 神条君ってば、中二病の設定を放課後まで崩さないなんて、プロ意識(?)高めなんだね! すっごい!」
莉子はポンと手を叩いて、キラキラした目でひどく納得していた。