箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
そんな女子二人の笑顔の絶えない空間を、アールだけが相変わらず一歩引いた位置から、静かに見つめていた。
「――お嬢、ならびに犬丸莉子。データ補足のため、ちなみに」
アールが何気ないトーンで口を開く。
「先ほどの音の原因は、旧校舎の老朽化した窓枠が突風によって煽られ、建て付けの悪い鍵部分と衝突したことによる物理現象と推定されます。超自然的な怪奇現象の確率は一%未満です」
『そういうのは今、言わなくていいの!』
二人の綺麗な斉唱がアールの言葉を遮った。
アールはほんの数秒間だけ、演算を停止するように沈黙し、
「……そうですか。理解不能です」
「そうだよ、空気読んでってば」
新那は呆れ果てたように吐き捨てた。けれど、その声には朝のような冷たさはもう残っていない。
ひとしきり笑い終え、呼吸を整えた莉子が、不意に何かを思い出したように首を傾げた。
「あれ?」
「ん? どうしたの?」
「そういえばさ、ずっと気になってたんだけど……」
莉子は、本当に何気ない顔で、ごく自然な疑問を口にした。
「新那ちゃんと神条君って、苗字が同じだよね?」
その瞬間、新那の顔から一切の笑顔が、綺麗さっぱり消え失せて固まった。
「え?」
「ほら、神条君と、新那ちゃん。二人とも『神条』でしょ? クラスの名簿を見た時から、珍しい苗字なのにお揃いだなーって思ってて」
莉子は無邪気に話を続ける。今日一日、あまりにもイベントが多すぎて忘れていただけなのだろう。
「もしかしてさ、二人の関係って……双子ちゃんだったりする?」
(――しまった……!)
新那の脳裏を、最悪の警報が駆け抜ける。
完全に盲点だった。アールに学校用の戸籍を用意する際、父親が自分の苗字をそのまま使ったせいで、学内では二人は同じ苗字になっているのだ。
新那は一瞬で脳細胞をフル回転させた。
アールの正体は言えない。ましてや「私の家が金持ちすぎて、誘拐を警戒した父親が用意した最強のミリタリーアンドロイドです」なんて口が裂けても言えるはずがない。
だから、新那はなるべく引きつらないように、自然な笑みを顔に貼り付けた。
「あー……! それね! 違うの違うの、双子じゃなくて……えっと、親戚!」
「親戚?」
「そう、親戚! 遠い親戚!」
新那は、真後ろの席で立っているアールを親指で指差した。
「ほら、私のパパの、兄弟の子供……つまり、従兄弟みたいな感じ! 昔からちょっと家が近くて、私の家が過保護だから、パパが『一緒に同じ学校に行って面倒見てやりなさい』って無理やり付いて来させたの!」
「へぇーーー! なるほどね!」
莉子は「それなら納得!」と言わんばかりに、あっさりと深く頷いてくれた。少しも疑う様子はない。
「じゃあ、本当に従兄弟なんだ! 幼馴染みたいな感じ? なんかそれ、漫画みたいで羨ましいなー!」
「あはは……まあ、そんな感じ、かな……」
良かった、信じてくれた。
新那は内心で、滝のような冷や汗を流しながらホッと胸を撫で下ろした。
「――お嬢、ならびに犬丸莉子。データ補足のため、ちなみに」
アールが何気ないトーンで口を開く。
「先ほどの音の原因は、旧校舎の老朽化した窓枠が突風によって煽られ、建て付けの悪い鍵部分と衝突したことによる物理現象と推定されます。超自然的な怪奇現象の確率は一%未満です」
『そういうのは今、言わなくていいの!』
二人の綺麗な斉唱がアールの言葉を遮った。
アールはほんの数秒間だけ、演算を停止するように沈黙し、
「……そうですか。理解不能です」
「そうだよ、空気読んでってば」
新那は呆れ果てたように吐き捨てた。けれど、その声には朝のような冷たさはもう残っていない。
ひとしきり笑い終え、呼吸を整えた莉子が、不意に何かを思い出したように首を傾げた。
「あれ?」
「ん? どうしたの?」
「そういえばさ、ずっと気になってたんだけど……」
莉子は、本当に何気ない顔で、ごく自然な疑問を口にした。
「新那ちゃんと神条君って、苗字が同じだよね?」
その瞬間、新那の顔から一切の笑顔が、綺麗さっぱり消え失せて固まった。
「え?」
「ほら、神条君と、新那ちゃん。二人とも『神条』でしょ? クラスの名簿を見た時から、珍しい苗字なのにお揃いだなーって思ってて」
莉子は無邪気に話を続ける。今日一日、あまりにもイベントが多すぎて忘れていただけなのだろう。
「もしかしてさ、二人の関係って……双子ちゃんだったりする?」
(――しまった……!)
新那の脳裏を、最悪の警報が駆け抜ける。
完全に盲点だった。アールに学校用の戸籍を用意する際、父親が自分の苗字をそのまま使ったせいで、学内では二人は同じ苗字になっているのだ。
新那は一瞬で脳細胞をフル回転させた。
アールの正体は言えない。ましてや「私の家が金持ちすぎて、誘拐を警戒した父親が用意した最強のミリタリーアンドロイドです」なんて口が裂けても言えるはずがない。
だから、新那はなるべく引きつらないように、自然な笑みを顔に貼り付けた。
「あー……! それね! 違うの違うの、双子じゃなくて……えっと、親戚!」
「親戚?」
「そう、親戚! 遠い親戚!」
新那は、真後ろの席で立っているアールを親指で指差した。
「ほら、私のパパの、兄弟の子供……つまり、従兄弟みたいな感じ! 昔からちょっと家が近くて、私の家が過保護だから、パパが『一緒に同じ学校に行って面倒見てやりなさい』って無理やり付いて来させたの!」
「へぇーーー! なるほどね!」
莉子は「それなら納得!」と言わんばかりに、あっさりと深く頷いてくれた。少しも疑う様子はない。
「じゃあ、本当に従兄弟なんだ! 幼馴染みたいな感じ? なんかそれ、漫画みたいで羨ましいなー!」
「あはは……まあ、そんな感じ、かな……」
良かった、信じてくれた。
新那は内心で、滝のような冷や汗を流しながらホッと胸を撫で下ろした。