箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
父親は新那のふくれた顔を見て、楽しそうにクスクスと笑った。
「新那は昔から朝に弱いからね。目覚まし時計を三個鳴らしても起きない君を、確実に、かつスマートに起こすにはこれしかないと思って零に頼んだんだよ」
「だからって、女の子の部屋に男の人を勝手に入れるなんて……!」
「お嬢、それは誤認です。俺は男性ではなく、神条コンソーシアム製のアンドロイドですので、法的ならびに倫理的な問題は発生しません」
「アールは黙ってて!」
新那がキーキーと怒っていると、父親が面白そうにアールへと視線を向けた。
「零、今朝の任務で何か特筆すべき問題はあったかい?」
「報告します。特筆すべき異常はありません。ただし、起床時に対象が最大デシベルの悲鳴を上げました」
「上げるに決まってるだろうがっ!」
「さらに、綿の詰まった布製品による、顔面への物理攻撃を1回受けました」
「だからあれは攻撃じゃなくて、ただの抵抗!」
「しかし、スキャンの結果、お嬢に当機を破壊する意思は確認されませんでしたので、平和的に処理を完了しました」
「もう! 勝手に二人で私のプライバシーを共有しないで!」
ついに父親が耐えかねたように、お腹を抱えてブハッと吹き出した。肩を小刻みに震わせながら、「ははは、枕を投げるなんて新那らしいな!」と大笑いしている。
新那はますます頬を膨らませ、ドカッと音を立てて自分の席に着いた。
アールはといえば、そんな主達のコミカルな遣り取りなど何処吹く風で、新那の左斜め後ろの位置へと滑らかに移動した。
そこは昨日、彼が初めて配置についた場所――まるで最初からそこに固定されている「定位置」のようだった。
新那はスプーンを手に取りながら、ふと斜め後ろを見上げる。
「……ねえ、アール。座らないの?」
「必要ありません。当機は直立状態での待機が最も効率的です」
「ずっと立ってて、疲れたりしない?」
「駆動系への負荷はリアルタイムで冷却されています。有機生命体のような『疲労』という現象は発生しません」
「……へぇ。便利だなぁ」
毎朝の通学や体育の授業で疲れる身としては、つい本音が漏れてしまった。
アールは感情のない瞳でそれを見つめるだけで、何も返さない。代わりに、父親が楽しそうに目を細めて訊ねてきた。
「どうだい、新那。零の有能さが欲しくなったかい?」
「ならない」
トーストをサクッと齧りながら、即答した。
「絶対にならない。機能は凄いと思うけど、朝のあれを毎日やられたら、私の心臓が高校三年間もたないもん」
「そうか、残念だな」
父親は肩を竦めたが、新那はもう気を取り直して、目の前の美味しい朝食を口へと運び進めた。
サクサクのトーストに、とろける黄身のベーコンエッグ。やっぱり、我が家のチーフシェフの味は最高だ。
昨日の夜は、初めてできた友達のことや、アールの突飛な行動のことで頭がいっぱいだった。けれど、こうして温かい朝の光を浴びてご飯を食べていると、じわじわと新しい「実感」が湧いてくる。
「新那は昔から朝に弱いからね。目覚まし時計を三個鳴らしても起きない君を、確実に、かつスマートに起こすにはこれしかないと思って零に頼んだんだよ」
「だからって、女の子の部屋に男の人を勝手に入れるなんて……!」
「お嬢、それは誤認です。俺は男性ではなく、神条コンソーシアム製のアンドロイドですので、法的ならびに倫理的な問題は発生しません」
「アールは黙ってて!」
新那がキーキーと怒っていると、父親が面白そうにアールへと視線を向けた。
「零、今朝の任務で何か特筆すべき問題はあったかい?」
「報告します。特筆すべき異常はありません。ただし、起床時に対象が最大デシベルの悲鳴を上げました」
「上げるに決まってるだろうがっ!」
「さらに、綿の詰まった布製品による、顔面への物理攻撃を1回受けました」
「だからあれは攻撃じゃなくて、ただの抵抗!」
「しかし、スキャンの結果、お嬢に当機を破壊する意思は確認されませんでしたので、平和的に処理を完了しました」
「もう! 勝手に二人で私のプライバシーを共有しないで!」
ついに父親が耐えかねたように、お腹を抱えてブハッと吹き出した。肩を小刻みに震わせながら、「ははは、枕を投げるなんて新那らしいな!」と大笑いしている。
新那はますます頬を膨らませ、ドカッと音を立てて自分の席に着いた。
アールはといえば、そんな主達のコミカルな遣り取りなど何処吹く風で、新那の左斜め後ろの位置へと滑らかに移動した。
そこは昨日、彼が初めて配置についた場所――まるで最初からそこに固定されている「定位置」のようだった。
新那はスプーンを手に取りながら、ふと斜め後ろを見上げる。
「……ねえ、アール。座らないの?」
「必要ありません。当機は直立状態での待機が最も効率的です」
「ずっと立ってて、疲れたりしない?」
「駆動系への負荷はリアルタイムで冷却されています。有機生命体のような『疲労』という現象は発生しません」
「……へぇ。便利だなぁ」
毎朝の通学や体育の授業で疲れる身としては、つい本音が漏れてしまった。
アールは感情のない瞳でそれを見つめるだけで、何も返さない。代わりに、父親が楽しそうに目を細めて訊ねてきた。
「どうだい、新那。零の有能さが欲しくなったかい?」
「ならない」
トーストをサクッと齧りながら、即答した。
「絶対にならない。機能は凄いと思うけど、朝のあれを毎日やられたら、私の心臓が高校三年間もたないもん」
「そうか、残念だな」
父親は肩を竦めたが、新那はもう気を取り直して、目の前の美味しい朝食を口へと運び進めた。
サクサクのトーストに、とろける黄身のベーコンエッグ。やっぱり、我が家のチーフシェフの味は最高だ。
昨日の夜は、初めてできた友達のことや、アールの突飛な行動のことで頭がいっぱいだった。けれど、こうして温かい朝の光を浴びてご飯を食べていると、じわじわと新しい「実感」が湧いてくる。