箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 制服に着替えを済ませて部屋を出る頃には、新那の脳細胞は完全に沸騰し、すっかり目が覚めていた。
 否、正確には「叩き起こされた」と言うべきだ。
 あんな心臓に悪いホラー映画さながらの起こされ方をされて、優雅に二度寝をキメられる人間がいるなら、ぜひ一度お目にかかりたいものである。

「最悪、本当に最悪……。朝から寿命が三年分は縮んだ……」

 まだ少し重い足取りで、不機嫌を全身から撒き散らしながら階段を下りていく。
 その後ろを、当然の義務としてカツン、カツンと付いてくるアール。足音一つ乱れず、乱れる呼吸音すらそこにはない。
 昨日の今日だが、こうして一緒にいると、彼の輪郭が「完璧な機械」であることを嫌でも実感させられる。
 リビングの扉を開けると、そこには優雅で香ばしい、朝の香りが広がっていた。
 きつね色にこんがりと焼けたトースト。
 じゅわじゅわと音を立てる肉厚なベーコンエッグ。
 瑞々しい採れたてのサラダに、湯気を立てるコンソメスープ。
 そして彩り豊かな季節のフルーツ。
 一般家庭のそれではなく、まるで都内の高級ホテルか貴族のディナーを思わせる贅沢な食卓だ。
 その大きな大理石のテーブルの向こう側で、新那の父親が優雅に新聞を広げていた。

「おはよう、新那。今日も制服がよく似合っているよ」
「おはようじゃないっ!」

 挨拶を音速で却下し、新那は凄まじい勢いで父親を睨みつけた。
 父親は新聞から視線を上げ、不思議そうに首を傾げる。

「おや、朝からずいぶんとご機嫌斜めだね。どうしたんだい?」
「『どうした』じゃないよパパ!」

 新那はビシッと、自分の背後に控えるネイビーのブレザー――アールを人差し指で指差した。

「なんでこの人が、朝の六時半から私のベッドの真横に直立不動で立ってるのさ!  視界いっぱいに真顔のイケメンがいる恐怖を、少しは娘の立場になって考えてよ!」
「ああ、それか」

 父親は全てを察したように、嬉しそうにポンと手を叩いた。

「零による起床支援(モーニングコール)だね。無事に成功したようで何よりだ」
「成功してない!  脅迫だ!」
「いやいや、現にこうして遅刻もせず、完璧に目が覚めているじゃないか。大成功だよ」

 悔しいが、その通りだった。言い返す言葉が見つからない。
 完璧に目は冴えているし、学校に遅れる心配も皆無だ。だからこそ、父親のドヤ顔が余計に腹立たしい。
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