箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
ふと、新那はバットを構える順番を待ちながら、遠くの男子コートへと視線を向けた。
緑の芝生が広がるサッカーコート。その中で、アールの姿は嫌でも目立っていた。
群を抜いた長身。
ユニフォーム越しでも分かる、一切の無駄を削ぎ落とした靭やかな体躯。
そして、彫刻のように整った横顔。
彼はただディフェンスラインに立っているだけなのに、まるでプロの試合のワンシーンのようなオーラを放っている。
と、その時だった。
アールが、不意にこちらを振り向いた。
「……」
遠く離れているはずなのに、真っ直ぐに視線が交差した。
ほんの一瞬。瞬きをするほどの、僅かな時間。
目が合うと、アールは何事もなかったかのように、再び正面のボールへと冷徹に視線を戻した。
(気のせい……だよね? あんなに離れてるのに、私のこと見てるわけないし……)
自分の自惚れだろうか、そんなことを考えながら、新那は再び自分の手元へと飛んできた白球へとグローブを伸ばした。
穏やかな春の風。楽しそうなクラスメイト達の声。
それらは確かに、箱入り娘だった新那が何よりも望んでいたものだ。
「――次、神条さん、バッターボックス入って!」
メガホンを手にした体育教師の、よく通る声がグラウンドに響いた。
「あ、は、はーい!」
新那はハッとして、慌てて声を裏返しながら返事をした。
遠くのサッカーコートにいるアールを見つめ、何をぼんやりと考え事をしている場合ではなかった。
いつの間にか自分の打席の順番が回ってきていたのだ。新那は手にしていた革のグローブをパッと外し、ベンチの横に置かれていた金属バットを受け取る。
「新那ちゃんがんばれーーーっ! 目指せバックスクリーン一発!」
すでに守備位置である遥か遠くの外野へと走っていった莉子が、両手をメガホン代わりにして大きくブンブンと振っていた。
「莉子ちゃん、これソフトボールだから! フェンスも何もないから!」
思わず大声でツッコミを投げ返しながら、新那は乾いた土を踏みしめて右打席へと向かう。
そして、新那がバットを構えてから数分後。
予期せぬ「小さな騒動」は、新那の打席ではなく、直後にトスバッティングを始めた別の班の生徒によって引き起こされた。
「きゃっ!?」
不意に、別の打席から女の子の甲高い悲鳴が上がった。
続いて――。
――カキィィィンッッッ!!
新入生の鈍った身体には似合わない、信じられないほど小気味良い快音がグラウンドに木霊する。
バットの芯で完璧に捉えられた白球は、打った本人の意図を完全に無視して、とんでもない方向へと鋭く打ち上げられた。
「あっ、やばい!」
「うわ、何処まで飛ぶのあれ!?」
周囲の女子生徒達から、一斉に焦りと驚きの声が上がった。
緑の芝生が広がるサッカーコート。その中で、アールの姿は嫌でも目立っていた。
群を抜いた長身。
ユニフォーム越しでも分かる、一切の無駄を削ぎ落とした靭やかな体躯。
そして、彫刻のように整った横顔。
彼はただディフェンスラインに立っているだけなのに、まるでプロの試合のワンシーンのようなオーラを放っている。
と、その時だった。
アールが、不意にこちらを振り向いた。
「……」
遠く離れているはずなのに、真っ直ぐに視線が交差した。
ほんの一瞬。瞬きをするほどの、僅かな時間。
目が合うと、アールは何事もなかったかのように、再び正面のボールへと冷徹に視線を戻した。
(気のせい……だよね? あんなに離れてるのに、私のこと見てるわけないし……)
自分の自惚れだろうか、そんなことを考えながら、新那は再び自分の手元へと飛んできた白球へとグローブを伸ばした。
穏やかな春の風。楽しそうなクラスメイト達の声。
それらは確かに、箱入り娘だった新那が何よりも望んでいたものだ。
「――次、神条さん、バッターボックス入って!」
メガホンを手にした体育教師の、よく通る声がグラウンドに響いた。
「あ、は、はーい!」
新那はハッとして、慌てて声を裏返しながら返事をした。
遠くのサッカーコートにいるアールを見つめ、何をぼんやりと考え事をしている場合ではなかった。
いつの間にか自分の打席の順番が回ってきていたのだ。新那は手にしていた革のグローブをパッと外し、ベンチの横に置かれていた金属バットを受け取る。
「新那ちゃんがんばれーーーっ! 目指せバックスクリーン一発!」
すでに守備位置である遥か遠くの外野へと走っていった莉子が、両手をメガホン代わりにして大きくブンブンと振っていた。
「莉子ちゃん、これソフトボールだから! フェンスも何もないから!」
思わず大声でツッコミを投げ返しながら、新那は乾いた土を踏みしめて右打席へと向かう。
そして、新那がバットを構えてから数分後。
予期せぬ「小さな騒動」は、新那の打席ではなく、直後にトスバッティングを始めた別の班の生徒によって引き起こされた。
「きゃっ!?」
不意に、別の打席から女の子の甲高い悲鳴が上がった。
続いて――。
――カキィィィンッッッ!!
新入生の鈍った身体には似合わない、信じられないほど小気味良い快音がグラウンドに木霊する。
バットの芯で完璧に捉えられた白球は、打った本人の意図を完全に無視して、とんでもない方向へと鋭く打ち上げられた。
「あっ、やばい!」
「うわ、何処まで飛ぶのあれ!?」
周囲の女子生徒達から、一斉に焦りと驚きの声が上がった。