箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 本当に、何処までもズレていて変なロボットだ。
 普通のAIなら、そんな非効率的で意味のないことは命令されなければ絶対にしない。機械が人間の睡眠のポーズを真似したところで、何の意味もないのだから。
 でも、何故だろう。彼のその突飛で不器用な行動が、新那にとってはちっとも嫌ではなかった。

「私の真似、したかったんだ」
「そうなる」
「真似する必要、あったの?」
「……」

 そこで、アールは本日二度目の、奇妙な沈黙を落とした。
 ほんの僅か。電子の海の中で、自分の行動の理由を見失って、迷子になってしまったかのように。

「――知りたかった」

 やがて、彼の唇から零れ落ちたのは、砂に染みる水のような静かな告白だった。

「人間という存在を。お嬢を、もっと深く」

 夕陽の光を浴びた彼の瞳が、真っ直ぐに新那を射抜く。
 新那は少しだけ、息が止まるかと思うほどに目を見開いた。人間を知りたい。私を、知りたい。
 昨日までのアールなら、そんな言葉は、世界がひっくり返っても絶対に口にしなかった気がする。
 護衛対象。任務の遂行。効率。生体維持。そんな冷たい、四角い言葉ばかりで頭の中を満たしていたはずなのに。
 今は、違う。
 それが、システムのエラーなのか、新那の教えた「友達プロトコル」の副作用なのか、理由は分からない。でも。
 少しずつ。本当に、目に見えないくらいの速度だけれど。彼の中で、何かが決定的に変わり始めていることだけは、新那にもはっきりと分かった。

「そっか……」

 新那の胸の奥に、さっきとは違う、甘酸っぱくて愛おしい熱がじわりと広がる。
 新那は優しく目を細め、彼に向けて微笑んだ。

「じゃあ……今度熱が完全に下がったら、本物の『昼寝』の仕方を、私が教えてあげる」
「――睡眠を他者に教える、というロジックは存在しないはずだが。教えられるものなのか」
「多分ね」
「曖昧な回答だ」
「だって、私もよく分かんないもん。ただ、お布団に入って、気持ちよくなったら自然に落ちちゃうものだから」

 アールは、新那の感覚的な説明を理解しようとするように、不思議そうに少しだけ首を傾げた。その、何処かあどけない仕草が妙に人間らしくて、新那はまた小さく声を立てて笑った。
 窓の外では、大きな夕陽が世界を鮮やかな橙色へと染め上げていく。
 風邪を引いて、学校を休んで、一日中ベッドの上で過ごす羽目になったのだから間違いなく散々な一日だったはずだ。
 けれど、雨上がりの柔らかな風を感じながら、こうして変な護衛(アール)と並んで過ごす静かな時間は――。
 新那にとって、何故だか、これまでの人生のどんなきらびやかな日よりも、特別で、悪くないと思える特別な放課後なのだった。








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