箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
❦立ち上がれ体育祭
数日後――。
あの最悪な高熱が嘘だったかのようにすっかり全快した新那は、心地よい朝の光を浴びながら、久しぶりに一年B組の教室の扉をガラガラと開いた。
「――あ! 新那ちゃん! おはよーーーー!!」
扉が開いた瞬間、教室の奥から弾弾とした元気な声が飛んでくる。
もちろん、莉子だ。彼女は新那が自分の席に鞄を下ろすよりも早く、小走りでダッシュして駆け寄ってきた。
「新那ちゃん! もう大丈夫なの!? 身体何処も痛くない? 熱は!?」
「うん、莉子ちゃんおはよ。もうすっかり平気だよ、ピンピンしてる」
「良かったぁぁぁ……! 本当に心配したんだからね!?」
大袈裟なくらいに自分の胸を何度も撫で下ろす莉子を見て、新那は胸の奥がじんわりと温かくなり、思わずクスクスと笑ってしまう。
「あはは、ありがと。でも莉子ちゃん、ちょっと心配しすぎだってば」
「心配するよ! だって三日も学校休んだんだよ!?」
「正確には二日と半分、ね」
「そんなの四捨五入したら同じだよ!」
全然違う。というか四捨五入の使い方が雑すぎる。
そう思ったけれど、彼女のその勢いのある優しさが嬉しくて、新那はあえて口には出さなかった。
すると、莉子がフッと何かに気づいたように「あっ、そうだ!」とポンと手を叩いて声を上げた。
「何?」
「今日ね、連絡事項で『体育祭の種目決め』があるよ!」
「たいいくさい……?」
新那は首を小さく傾げる。聞き慣れない響きに、今度は莉子の方が「えっ」と驚いたように目を丸くした。
「え、新那ちゃん聞いてないの? プリントとか回ってきてない?」
「う、うん、聞いてないかも……」
「マジかぁ、神条財閥の連絡網はどうなってるの~」
莉子は呆れたように笑いながら、腰に手を当てた。
新那は「体育祭」という未知の単語に、少しだけ身を乗り出して興味津々に訊ねる。
「ねぇ、体育祭って……具体的に何をするの?」
「えっ、そこから!? 体育祭だよ!?」
「だって、本当に知らないんだもん」
それもそのはず、これまでずっと、外界と遮断された大きな家の中で、家庭教師と一対一のマンツーマン授業を受けてきた新那にとって、学校全体の集団行事なんてものは、完全に知識の外側にあるイベントだった。