箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
しかし、アールは新那のジト目など全く気にする風もなく、淡々と自らの脳内データベースから弾き出した不吉な予測を羅列し始めた。
「過去十年の高校における体育祭のデータを分析。グラウンドの未舗装による転倒、コーナーリング時の他生徒との『接触事故』、及び直射日光下での過度な運動による『熱中症』のリスク。お嬢の肉体は数日前、降水確率十%の雨で脆くも崩壊したばかりだ」
「ちょっと、崩壊って言わないで! あと、もう風邪は治ったから大丈夫!」
「油断は禁物だ」
アールは一秒だけその琥珀色の瞳を真面目に明滅させ、新那を真っ直ぐに見つめた。
「――だが、問題はない。あらゆるイレギュラーから俺がお嬢を守る」
何の迷いもなく、何の躊躇もなく、感情の起伏なんて何も無いアールは堂々とそう言った。
昨日、住宅街の坂道や脱衣所の前で教え込まれた「友達みたいな自然なプロトコル」のままに。まるで「明日の天気は晴れだ」とでも言うように、至極当たり前の事実として。
「……っ」
新那は、喉の奥でカチリと音がしたかのように、一瞬で言葉を失って固まった。
朝の教室の喧騒が、耳の奥で遠くなる。
ふと隣を見ると、莉子が何故か両手で口元を覆いながら、ニヤニヤ、ニヤニヤと、怪しい笑みを浮かべて新那とアールの顔を交互に見つめていた。
「な、なな、何その顔! 莉子ちゃん!」
「んむ~? 別にぃ? なーんにも思ってないよ? 健気だなぁって思っただけぇ~」
「絶対何か思ってる顔だし、その『んむ~』って何!?」
新那は顔を耳の先まで真っ赤に染め上げながら、大慌てで莉子の肩を揺さぶって話題を軌道修正した。
「で、でもって! その、種目決めっていうのは、いつやるの!?」
「ぶふっ、今日の五時間目のホームルームだよ!」
莉子は新那のあまりのテンパり具合に吹き出しながら、ウインクをして教えてくれた。
体育祭。クラス対抗。皆で協力して、競い合って、大声で応援し合う、自分の知らない「普通の高校生」達の世界。
アールは後ろで相変わらず「当機の警備体制を体育祭モードへ移行する」とか不穏なことを呟いているけれど。
それでも、新那の胸の奥では、これまでに感じたことのない、新緑の季節のような爽やかなワクワク感が、ドクドクと静かに、けれど確かに鳴り響いていた。
「過去十年の高校における体育祭のデータを分析。グラウンドの未舗装による転倒、コーナーリング時の他生徒との『接触事故』、及び直射日光下での過度な運動による『熱中症』のリスク。お嬢の肉体は数日前、降水確率十%の雨で脆くも崩壊したばかりだ」
「ちょっと、崩壊って言わないで! あと、もう風邪は治ったから大丈夫!」
「油断は禁物だ」
アールは一秒だけその琥珀色の瞳を真面目に明滅させ、新那を真っ直ぐに見つめた。
「――だが、問題はない。あらゆるイレギュラーから俺がお嬢を守る」
何の迷いもなく、何の躊躇もなく、感情の起伏なんて何も無いアールは堂々とそう言った。
昨日、住宅街の坂道や脱衣所の前で教え込まれた「友達みたいな自然なプロトコル」のままに。まるで「明日の天気は晴れだ」とでも言うように、至極当たり前の事実として。
「……っ」
新那は、喉の奥でカチリと音がしたかのように、一瞬で言葉を失って固まった。
朝の教室の喧騒が、耳の奥で遠くなる。
ふと隣を見ると、莉子が何故か両手で口元を覆いながら、ニヤニヤ、ニヤニヤと、怪しい笑みを浮かべて新那とアールの顔を交互に見つめていた。
「な、なな、何その顔! 莉子ちゃん!」
「んむ~? 別にぃ? なーんにも思ってないよ? 健気だなぁって思っただけぇ~」
「絶対何か思ってる顔だし、その『んむ~』って何!?」
新那は顔を耳の先まで真っ赤に染め上げながら、大慌てで莉子の肩を揺さぶって話題を軌道修正した。
「で、でもって! その、種目決めっていうのは、いつやるの!?」
「ぶふっ、今日の五時間目のホームルームだよ!」
莉子は新那のあまりのテンパり具合に吹き出しながら、ウインクをして教えてくれた。
体育祭。クラス対抗。皆で協力して、競い合って、大声で応援し合う、自分の知らない「普通の高校生」達の世界。
アールは後ろで相変わらず「当機の警備体制を体育祭モードへ移行する」とか不穏なことを呟いているけれど。
それでも、新那の胸の奥では、これまでに感じたことのない、新緑の季節のような爽やかなワクワク感が、ドクドクと静かに、けれど確かに鳴り響いていた。