箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 運動会というものをテレビのニュースや漫画のコマの中で見たことはあるけれど、自分がその渦中に飛び込んで参加したことは一度もないのだ。

「えっとね、基本的にはクラスごとに色分けされて、皆で色んな運動の競技に出て点数を競い合うの!」

 莉子は楽しそうに指を折りながら、具体的な種目の説明を始めた。

「定番の百メートル走とか、リレーでしょ」
「うん」
「あと、籠の中に皆で一斉に球を投げ入れる玉入れとか」
「楽しそう」
「それから、一本の太い綱をみんなで掛け声合わせて引っ張り合う綱引き!」
「テレビで見たことある!」
「あとね、お題の紙を引いて、そこに書かれた人を観客席から連れて走る『借り物競走』とか!」
「えっ、何それ面白そう!」
「でしょ?  でもって、一番盛り上がるのが、一日の最後にやる『クラス対抗全員リレー』!」

 その瞬間、新那の瞳が、まるで夜空に花火が上がったかのようにキラキラと輝いた。

「クラス対抗全員……ってことは、クラスの皆でバトンを繋ぐの?」
「そうそう!  足が速い子も遅い子も、全員で一本のバトンを繋いで走るの!」
「全員で……楽しそう!  すっごく楽しそう!」

 思わず机から身を乗り出して前のめりになる新那を見て、莉子は「あはは!」と嬉しそうに破顔した。

「あはは、絶対新那ちゃんそう言うと思った!  完全に食いつくと思ったよ」
「だって、皆で一つの目標に向かって走るなんて、そんなの最高じゃん!」

 二人が朝の教室の片隅でキャーキャーと盛り上がっている、まさにその時だった。

「――体育祭というイベントは、統計学的に一般生徒の負傷率が年間で最も高い危険行事(イベント)に分類される」
「うわっっ!?」

 背後から突然降ってきた、冷徹で抑揚のない低音。
 新那が驚いて弾かれたように振り返ると、そこにはいつの間にか、私服の上から制服を完璧に着こなしたアールが、音もなく背後に直立不動で立っていた。

「ちょっと!  アール、いつからそこにいたの。ってか聞いてたの?」
「――お嬢達の会話の音声データを集音マイクが関知した」
「それ、普通に盗み聞きじゃん」
「違う。護衛対象の周囲の安全確認に伴う、不可避の環境音(環境ノイズ)の受信用だ」

 全然違わない。言い訳のスケールがロボットすぎる。
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