聖女らしいですが、皇太子殿下と結婚とか無理ですから!

   ***

『聖女の生まれ変わりの者を迎えに行く』

 そう連絡が来たのは、ようやく日差しが春めいてきたころだ。
 それに家族一同、「とうとうか」と微妙な顔をした。
 「迎え」とはすなわち、聖女を皇太子の妃に迎えるという意味だ。

 王の元には、聖女が戻ってきたときに、それを知る為の道具だか設備だかがあるという。それが十六年前。皇太子の誕生と同じ日に、聖女の再来を告げたという。
 事実、その日天女の里に新たな命が誕生した。生まれたのは俺フィンリーと、双子の姉ブレアだ。

 青い髪と緑色の目を持つ俺と、緑の髪と青い目を持つブレア。
 聖女の髪と目の色に合うのは俺の方だったけど、みんなはブレアを聖女の再来だと判断した。当然だろう。
 とはいえ、親をはじめ里の者たちも皆、本気でこれを信じてるわけではなかった。言い伝えの条件にはあってるしってことで、一応役目は役目。そんな風に、ちょっと面白がっていたというのがたぶん正しい。

 それでも我が家は親の方針で、「将来のお妃様のため」というおままごとに似たノリで、ブレアは貴婦人としても十分通じる教養を叩きこまれたわけだが、なぜか上の姉や俺までそれに巻き込まれた。

「だって一人じゃ張り合いないじゃない」
 と笑うのは、家族で一番強い母。そう。我が家は誰も母の決定には逆らえないのです。

 もともと里の人間は十六になると、密かに王都をはじめとした都市に出向く。外の情報を取り入れるためといった感じだ。なのでここが普段隔絶された世界とはいえ、驚くほど外の情報に精通していた。

 そんなこんなで、俺とブレアも十六になるのを楽しみにしてたわけだが、十五歳になったとき、突然俺に聖女の力が発現してしまった。誰か嘘だと言ってくれ!

 なのにブレア曰く、「やっぱりね」だと。

 何がやっぱりなのかと聞くと、腹の中から一緒だったせいか、何か違うものを俺に感じていたというのだ。だから自分は聖女じゃないと確信し、気楽に「貴婦人教育ごっこ」を楽しんでいたと。
 やけにノリが軽い気がしてたのはそのせいか。

 ちなみに聖女の力は、魔を払う力だ。
 もともとここが守護の霧に守られているとはいえ、強い魔物が紛れ込むことも二、三年に一度はある。

 あの日、襲われかけたブレアを助けるために必死だった俺は、絶体絶命という瞬間にその力を出し、事なきを得た。この力のおかげでブレアを救えたのは嬉しいけれど、聖女って……女だろ? 女だよな?

 ここはもう、ブレアがそうだったことにして嫁に行ってくれと懇願したが、ブレアは元々恋仲だったリブとさっさと婚約を決めてしまった。裏切者め。
 ――いや、嘘です。リブはいいやつなので、絶対幸せになるに決まってる。

 残念ながら、俺は生まれつき女顔だ。そのせいか、女の子と仲良くなっても友達どまり。おかげで可愛い女子の恋の相談に乗るなんて日常茶飯事だ。面白くない。
 きっと大人になったら、父さんみたいにがっちりムキムキになるし、そしたらモテモテだって信じてたのに、妃なんてやだ。

「えええ。でもぉ、フィンリーも頑張ればぁ、その聖女の力で一回くらい妊娠できそうじゃない?」

 姉たちよ。面白がるな、絶対無理だから。
 俺は可愛い嫁さんをもらいたいのであって、嫁になりたいなんて、全然まったく思ってない!

「だいたい皇太子だって、そんな眉唾物の嫁を迎えになんて来ないさ」

 絶対そうだ。そうに決まってる。
 代々そうだったように、家格の合う、綺麗なお姫様を迎えるに決まってる。

 そう願っていたのに、届いた知らせに目の前が暗くなった。

 いや。きっと霧が阻んでくれる。
 そう信じてたのに、皇太子ご一行はすんなり里に来てしまった。

 もうやだ。

「だいじょうぶよ、フィンリー。お姉ちゃんたちがあんたが嫁に向かないいいわけを千は考えてあげたから」

 信じてるよ、姉ちゃんたち!
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