聖女らしいですが、皇太子殿下と結婚とか無理ですから!
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(うわぁ、これが王族か。実物の迫力すげぇ)
ひなびた村の質素な小屋に、これほど似つかわしくない存在があるだろうか。
俺は笑顔の裏でダラダラと冷や汗をかきながら、目の前のきらびやかな人物の前にちょこんと座らせられていた。
ちらりと見れば、間違いなく高貴な人ですと言わんばかりの衣装に身を包み、穏やかにほほ笑む圧倒的美丈夫。
皇太子は俺と同い年だからまだ子供っぽさは残るけど、中性的かつド迫力の美男子だ。美人って性別を超えるんだな。くっそ。
(やっぱり無理無理無理。無理だから! 緊張しすぎて、口から胃袋が飛び出しそうだって。姉ちゃんたち、ほんと頼むよ)
心の中では一目散に逃げたくなるも、晴れ着の裾を母にしっかり押さえられ、肩を長姉にがっちり握られた俺は、完全に捕らわれたウサギのようだ。
ううう。皮を剥がれないよう大人しくしてよう。
堅苦しいのは抜きだと、和やかに会話がはずむ。雰囲気は完全に宴だ。
もちろん俺は一切口を利かない。のどぼとけを隠してるとはいえ、もちろん声変わりはしてる。声を作ったところでさすがにバレるだろう。
里の代表と、俺の家族。もてなしのために集まった人々。
好奇心でみんな目がキラキラしてるのを、皇太子たちは歓迎されてると感じてるんだろうなぁ。
うん、こんな面白いことめったにないもんな。あとで泣いてやる。
ちらりと皇太子――名前はエメリーという――を見ると、いたずらっぽい目で見返されて、不覚にもドキッとしてしまった。
ときめきじゃないからな? 絶対違うからな?
ただ以前、どこかで会ったことがある? ――そんな風に感じたのだ。そんなわけないのに。
エメリー殿下の楽しそうな表情に、ちょっぴり罪悪感で胸が痛んだのはそうなんだけど。
(俺が聖女の生まれ変わりだったとしたら、本当にごめんな)
お付きのものの話だと、聖女ロクサーナの話は代々受け継がれてきたらしい。こっちでは知りえない夫婦の話なんかもあって、昔話として普通に楽しんでしまった。
きっと、皇太子も生まれ変わって戻って来るから、年はそんなに離れないに違いないと信じてたって言うんだから、その純さに泣けるぜ。
そんななか、姉たちが面白おかしくフィンリー武勇伝という名の失敗談を披露したり、いかに俺が花嫁に向かないかの言い訳を、それこそ千じゃきかないんじゃないかというくらい並べ立ててるのに、殿下は楽しそうにニコニコ聞いてるだけだ。
挙句の果てに、殿下本人から「二人で話せないか」と言われた時は、目の前が真っ暗になった。
(やっぱり自分で事実を言わなきゃいけないよな)
そう思ったはずなのに、目の前は本当に暗く、音もやけに遠い。
不思議に思っている俺を、誰かの温かな手が引っ張った。
ハッと気づくと、広間の隣にあるテラスに置かれたベンチに、エメリー殿下と二人並んで座っていた。なぜか笑いを含んだ目で見られ、思わず頬が熱くなる。
「フィンリー、会いたかった」
「いえ、あの、殿下……」
精一杯高い声を出すも、そんなに純粋な目で見られたらもう無理だ。
覚悟を決め、首に巻いていたスカーフを取って喉ぼとけをさらし、複雑に編まれた髪の一部をほどく。
「すみません殿下。俺、男なんです」