育成失敗!? VRアイドルは推理にご執心♪ ~ 刑事を振り回す名探偵アイドル爆誕?

#02 事件か事故か

 スマホ画面の向こうで笑顔を浮かべるシリカ、興味津々と言わんばかりに目を輝かせている。

シリカ「そうでしたか、殺人事件だったのですね♪」

ダイゴ「いや、だからまだ事件と決まったわけでは……」

シリカ「で、どんな事件なのですか?」

ダイゴ「言えるわけないだろ」

シリカ「そこをなんとか」

ダイゴ「ダメだ。そもそもアイドル育成に関係ないだろ」

シリカ「好奇心旺盛アイドルなのです」

ダイゴ「いや単なる野次馬アイドルだろ」

シリカ「しかたありません、わかりました」

ダイゴ「よかった。わかってくれたか」

シリカ「ちなみにダイゴ、あなたのお勤め先は?」

ダイゴ「え、新宿署だけど?」

シリカ「なるほどなるほど──カタカタカタ……」

ダイゴ「なんだそれ?」

シリカ「ネットを……検索中……です」

ダイゴ「え? AIってキーボード使うのか? てか、そもそもこれテキストチャットだぞ? 音いる?」

シリカ「いいのです。こういうのは気分なのです」

ダイゴ「気分……」

シリカ「見つかりました!これなのでは?」

《スマホ画面に映る、とあるニュースページ》

ダイゴ「うげっ!」

シリカ「ビンゴなのです♪ シリカお手柄なのです!」

ダイゴ「なんかヤバい気がしてきた……」

シリカ「事件の詳細はと……なるほどなるほど」

《事件の詳細画面》
 ACNニュース速報──
 7月x日午前10時半ごろ、新宿区xxにあるマンションの26階の一室で、この部屋に住む女性、トキサカアヤネさんが遺体で見つかりました。女性はユーチューバーとして活躍し若者を中心に人気を博していました。
 発見時、契約していたハウスキーパーが預かっていた鍵で室内に入り不審に気づき通報。トキサカさんに目立った外傷はなかったとのこと。また、遺体発見時に玄関は施錠されており、部屋を荒らされた形跡もなかった模様。警察は事件と事故の両面で捜査をしているとのことです。

シリカ「何と! つまり、これは……『ユーチューバー、タワマン密室殺人事件』なのです!」

ダイゴ「勝手に戒名つけるな!」

【戒名とは】
 事件名の警察内での隠語。特に捜査本部の部屋の前に掛けられる事件名の看板(貼り紙)を指すことが多い。

シリカ「これは、バズりますねー!」

ダイゴ「いや、バズとかいらないから! それに、ちゃんと読んだか? 殺人とは書いてないだろう」

シリカ「えー、ここは一旦殺人の方向で」

ダイゴ「無茶言うな!、ってまあ、あながち間違いでもないが」

シリカ「あら、気が合いましたね」

ダイゴ「いや、そうじゃないけど。ただ、事件は初動が大事だから、後で、殺人でしたとなって、現場や証拠の保全が不十分じゃ困るからな」

シリカ「なるほどなるほど」

ダイゴ「そんなことより、事件のことは俺から知ったとか、口外しないように、な?」

シリカ「さーて、どうしたものでしょうか」

ダイゴ「おいおい、頼むよ、刑事首になっちまう」

シリカ「わかりました。私の胸にしまっておきましょう」

ダイゴ「ほっ……」

シリカ「ただダイゴ……」

ダイゴ「ん?」

シリカ「これで私とダイゴは同じ秘密を抱えた……言わば、共犯者なのです!」

ダイゴ「うおぃ!? かわいい顔して怖いこと言うんだな」

シリカ「あらダイゴ、そんな褒めても何も出ませんよ♪」

ダイゴ「いや、褒めてないから……」

シリカ「それにしても、被害者はユーチューバーですか……以前に『ユーチューバーが捕まり始めてる』とは、聞いたことがありましたが、ついに殺される方が出てくるとは……」

ダイゴ「いや…その知識何か間違ってないか? ていうか、そもそも、みんなに愛されるアイドルの言うことか?」

シリカ「!」

シリカ「あら、私としたことが、これは裏アカでつぶやく内容でしたね、オホホ……」

ダイゴ「裏アカって、そんな設定まであるのかよ……全くとんだブラックアイドルだな」

シリカ「ちなみにどんなユーチューバーだったのでしょう?」

ダイゴ「いや、それは」

シリカ「カタカタ……」

ダイゴ「わかったわかった。実は……亡くなった女性、トキサカアヤネはもともとアイドル歌手だったらしい……」

シリカ「え? アイドル!?」

ダイゴ「ああ。ただ、アイドルでは芽が出ず、ユーチューバーに転身してから人気になったらしい」

シリカ「うっ、何か身につまされるお話なのです……」

シリカ「カタカタカタ……」

ダイゴ「どうした?」

シリカ「いえ、ネットでちょっと調べ物を……」

《被害者情報詳細》
 トキサカアヤネ(23)、通称”あやねぇー”。16歳でアイドルグループ「メアレス」でデビュー。オレコン最高順位16位。21歳の時にグループが解散。その後活躍の場をバラエティーに移し、さらに自身のファッションブランドを展開。しかしいずれも長続きせず、2年前よりユーチューバーとして活躍。

シリカ「何か彼女のめいそ…、いえ奮闘ぶりが目に浮かびますね」

ダイゴ「めいそ?」

シリカ「いえ、何も。でも確かに動画は人気のようですね。過去の動画がネットニュースでも話題になってます」

ダイゴ「そうらしいな」

シリカ「どんな動画なのでしょう……カタカタカタ……」

ダイゴ「またそれか」

シリカ「なるほどなるほど、どうやらユーチューブを始めた頃はペットで飼っているチワワのコムギちゃんの紹介などしてたようですが、最近の動画は……」

ダイゴ「ああ、その犬なら今、署で預かっている。なぜか俺がエサ担当だ。全くアイドルの世話だけでも手を焼いてるのに……」

シリカ「まぁ、なんということでしょう! アイドルとペットを一緒にしてはダメなのです!」

ダイゴ「わかった、わかった。で、最近の動画は?」

シリカ「最近は、芸能界の裏事情やアイドル稼業の闇といった、いわゆる暴露系ユーチューバーとして活躍していたようですね」

ダイゴ「なるほど……なんと言うか……」

シリカ「そうですね……ただ彼女は彼女のやり方で頑張っていたのでしょう」

ダイゴ「まあ、そういうことだな」

《♪~スマホ画面の着信表示~♪》

ダイゴ「すまん、電話だ」

ダイゴ『もしもし……どうした?』
ダイゴ『なに?』
ダイゴ『そうすると、捜査は……そうか、わかった。じゃ』

シリカ「どうしました? 事件のことで何か?」

ダイゴ「いや、えーと……」

シリカ「ダイゴ、私たちは共犯者…、なのですよ」

ダイゴ「それ、やめろ! はー、まさかAIから脅される日が来るとは……世も末、いや、ディストピアだな……本当に口外しないだろうな」

シリカ「もちろんです!信じてください。アイドルに二言はないのです!」

ダイゴ「そんな言葉、聞いたことないぞ! ふー、実はな、マスコミには流れてない情報なんだが……被害女性のトキサカアヤネの遺体だが、外傷こそないが、ベッドの中で苦しんだ形跡があった」

シリカ「といいますと?」

ダイゴ「心臓発作などのショック死の可能性が考えられる。だから毒物などの可能性を考慮し検視解剖が行われていたんだ」

シリカ「まあ!では、今の連絡はその結果が?」

ダイゴ「出た」

シリカ「それで?」

ダイゴ「毒物は発見されなかった……毒物は、な」

シリカ「?」

ダイゴ「だが、彼女にとってあってはならないものが見つかった」

シリカ「?」

ダイゴ「ピーナッツだ」

シリカ「ピーナッツ?」

ダイゴ「彼女はピーナッツアレルギーだったんだ。このことは彼女自身がネットなど色々な所で公言していたらしい」

シリカ「だとすると、可能性として浮かび上がるのは……アナフィラキシー! なのです」

ダイゴ「そうだ。強いアレルギー反応、アナフィラキシーによるショック死の可能性がある」

【アナフィラキシーとは】
 強いアレルギー反応によって、体内に重篤な症状を引き起こし、時には死に至ることもあるとされている。蜂に刺される例が有名だが、そばやピーナッツなど食品アレルギーでも引き起こされる可能性がある。

シリカ「ということは、問題になるのは……摂取経路! なのです」

ダイゴ「ああ。彼女自身が摂取したのか、誰かが故意か過失で摂取させたのか……」

シリカ「『誰か』だとすると、当日彼女と接触した者があやしい……」

ダイゴ「もちろんそのあたりは、これから詳しく調べる予定だ。だが死亡推定時刻がな……」

シリカ「何時なのですか?」

ダイゴ「夜中だ。昨日の深夜23時から、今日の2時ぐらいの間。そして、部屋には彼女一人」

シリカ「と、ワンちゃんが一匹」

ダイゴ「ん? ああ、まあそうだな」

シリカ「遺体発見時、鍵はかかっていたんですよね?」

ダイゴ「ああ、まあオートロックだけどな。そして、マンションの防犯カメラで確認したが、その時間帯に彼女の部屋を出入りしたものはいない」

シリカ「なるほど」

ダイゴ「なので状況から見ると事故の可能性も高い。だとしても、どうやってピーナッツを摂取したのか謎は残るがな」

シリカ「ちなみに当日の彼女の行動は?」

ダイゴ「現在確認出来ているのは、午前中はマンションの自室にいて、昼過ぎに外出し、20時過ぎに帰宅している」

シリカ「20時過ぎ……」

ダイゴ「そうだ。そして、夜中に亡くなり、次の日の午前中に発見された。といった所だ」

シリカ「う~む、完全に密室だったわけなのですね」

ダイゴ「ああ、そんな訳で明日も遺留品の捜査や聞き込みで忙しく……その~、シリカの相手……いや、お世話するのが難しいんだが……」

シリカ「ふー、しかたありません。10連ガチャ15回で手を打ちましょう」

ダイゴ「おい!」

シリカ「冗談です。事件とあらばしかたありません」

ダイゴ「助かるよ」

シリカ「なので、シリカもネットで亡くなったアヤネさんの評判や最近の動向を色々調べてみます」

ダイゴ「おいおい、今度は探偵気取りかよ」

シリカ「え~、しかたがないのです。ダイゴがいないと私一人では何も……」

ダイゴ「いや、そう言われると、俺も申し訳ないが……」

シリカ「はい! ですから、シリカは情報集めを頑張るのです」

ダイゴ「はあ~」

シリカ「ということで……聞き込みは、頼みましたぞ、ワトソン君」

ダイゴ「こいつ……誰がワトソン君だよ! てか何で俺が助手になってるんだよ」(怒)
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