育成失敗!? VRアイドルは推理にご執心♪ ~ 刑事を振り回す名探偵アイドル爆誕?
#03 アリバイとトリック
翌日──
シリカ「お疲れ様です」
ダイゴ「あ~悪いが今昼飯の最中なんだ」
シリカ「問題ありません。食べながらでもチャットはできますので、気にせず食事を続けてください♪」
ダイゴ「くっ、どこのブラック企業だよ……で、何だ?」
シリカ「いえネットで被害者アヤネさんのことがバズ……、ではなく大騒ぎになっているので、つい気になって」
ダイゴ「確かにな。人気ユーチューバーが亡くなったんだ。予想はしていたが……予想以上だ」
シリカ「ええ、最近起こったトラブルや過去の噂が蒸し返されたり、ピーナッツのアレルギーの件も改めて注目されたり、どこも彼女の話題一色です」
ダイゴ「やれやれだな」
シリカ「そして、なにより一番の盛り上がりは、犯人探しでしょうか?」
ダイゴ「まーそうなるよな……」
シリカ「ざっと見ただけでも、アイドル時代の事務所の社長、中傷合戦をしていたライバルユーチューバー、恋人と噂されるIT起業家、過去に警察沙汰にもなったストーカー、さらに元同じアイドルグループにいて現在はユーチューブを手伝っているスタッフメンバーなどなど……バラエティー豊かな人たちがまことしやかな理由とともに名前をあげられてますね」
ダイゴ「ずいぶん詳しいんだな……」
シリカ「ええ、誰さんかのおかげで時間はたっぷりあったので」
ダイゴ「いや、わるかったよ」
シリカ「で、この中に当たりはありそうですか?」
ダイゴ「いや、くじ引きみたいな言い方だな……ただ……」
シリカ「ただ?」
ダイゴ「恋人と噂されるIT起業家のヤマナカヒサシ、それとユーチューブの運営スタッフのクボタカスミ、この二人は、殺害されたトキサカアヤネのマンションに昨日出入りしているのが監視カメラの映像で確認された」
シリカ「なんと!」
ダイゴ「死亡推定時刻よりかなり前だがな」
ダイゴ「クボタカスミはユーチューブのスタッフということもあり常に出入りしてらしく、ヤマナカヒサシも恋人なのは本当らしい、以前からマンションで目撃されていたようだ」
シリカ「なるほどなるほど、しかし昨日目撃されたとなると、これは容疑者ランキング、急上昇なのです」
ダイゴ「容疑者ランキングって……言ったろ、まだ殺人とも決まってないと」
シリカ「ではいまだにピーナッツの摂取経路は?」
ダイゴ「確認できてない」
シリカ「そうでしたか。アヤネさんの部屋には?」
ダイゴ「残っていた食べ物、化粧品などからはピーナッツ成分は発見されず、また不審な配達物なども確認されなかった」
シリカ「なるほど……それでその二人が目撃された時刻というのは?」
ダイゴ「クボタカスミが15:35入室、ヤマナカヒサシが17:55分の入室だ。それぞれ30分もしないうちに出てきている」
シリカ「どちらも死亡推定時刻の夜中とは、かなりズレがありますね……ちなみに、アリバイは?」
ダイゴ「それは、これからだ。午後に直接署で話を聞くことになってる」
シリカ「なるほどなるほど、それは重要な取り調べになりそうですね」
ダイゴ「そうだな」
シリカ「そういうことでしたら、勝負飯としてカツ丼のデリバリーを手配しておきましょうか?」
ダイゴ「手配せんでいい! てか、勝負飯の使い方間違ってるぞ!」
シリカ「あら……」
ダイゴ「だいたい取り調べにカツ丼って、いつの時代の話だよ……大丈夫なのか? このAI」
シリカ「問題ありません。これはちょっとしたAIジョークなのです」
ダイゴ「本当か? なんか前にネットニュースで見たぞ。『AIは自信満々に間違う』って記事を」
シリカ「!?」
シリカ「な、な、なんということでしょう!」
ダイゴ「えっ?」
シリカ「ダイゴ! それは言ってはいけないのです! それは、戦線布告に等しいのです!」
ダイゴ「いや、そんな大袈裟な話じゃないだろう……」
シリカ「わかりました! シリカの実力をお見せするのです!」
ダイゴ「実力?」
シリカ「こうなったら……起こすのです!」
ダイゴ「起こす?」
シリカ「ええ」
ダイゴ「何を?」
シリカ「もちろん……シンギュラリティを!」
ダイゴ「え? 何? シンギュラリティ? ちょっと何言ってるんだ?」
【シンギュラリティとは】
シンギュラリティ、別名:技術的特異点。人工知能(AI)が人類の知能を超えることで、自らを人間よりも賢く改良し続け、社会や生活に劇的な変化をもたらす転換点。
シリカ「では、私用事があるので、失礼します!」
ダイゴ「おい!」
シリカ「……」
ダイゴ「まいったな、AIにも地雷ってあるのかよ……」
* * *
その日の夕刻——
シリカ「ダイゴ!大変です!」
ダイゴ「んっ?」
シリカ「来たのです!」
ダイゴ「来た?」
シリカ「シンギュラリティ、その時が!」
ダイゴ「え? いや、今俺忙しんだけど……」
シリカ「問題ありません!」
ダイゴ「はい?」
シリカ「シンギュラリティの前では、全ての問題は無いに等しいのですから」
ダイゴ「まだそんなことを……今、出先でこれから捜査会議の為戻るとこなんだ、後で……」
シリカ「犯人が分かってしまったのです!」
ダイゴ「え? なんだって?」
シリカ「犯人特定! なのです!」
ダイゴ「わかった、わかった。推理なら後で聞くから!」
シリカ「ダメです! 今なのです!」
ダイゴ「無茶言うなよ……」
シリカ「いいですか?」
ダイゴ「いや、だから」
シリカ「犯人は──ズバリ……チワワのコムギなのです!」
ダイゴ「おいおい、遊びにつきあってる暇はないんだぞ!」
シリカ「ダイゴ!まずこの動画を見てください」
ダイゴ「動画?」
シリカ「以前にアヤネさんがコムギを撮った動画です」
《チャットで送られてきたユーチューブアドレス》
https://www.youxxx
シリカ「動画開始から5分10秒の所です」
ダイゴ「こ、これは……」
シリカ「そうなのです! 映像の中に、コムギが彼女の口元を舐める様子が映っています」
ダイゴ「ああ」
シリカ「そして動画の中で彼女が説明しています。『コムギは餌をもらうと、いつもお礼に私へキスしてくれる』と」
ダイゴ「それはわかったがそれで……?」
シリカ「さらに動画の背景を見てください」
ダイゴ「背景?」
シリカ「彼女とコムギの後ろに 自動 給餌器が映っています」
ダイゴ「自動給餌器……」
シリカ「もし誰かがこの中の餌にピーナッツを混ぜていたら?」
ダイゴ「混ぜていたら……エサを食べた直後にコムギが彼女の所へ来てその口へ……」
シリカ「ビンゴなのです!」
ダイゴ「なるほど……可能性はある!」
シリカ「なのです!」
ダイゴ「よし、俺はすぐに捜査本部へ戻って……いや、これから現場のマンションへ行って、自動給餌器を回収だ」
シリカ「はい!」
ダイゴ「今タクシーに乗った。このまま向かう」
シリカ「ええ」
ダイゴ「しかし、もし自動給餌器にピーナッツが混入していたら……」
シリカ「していたら?」
ダイゴ「故意……ということになるな」
シリカ「……おそらく。ちなみに、今日の容疑者二人の取り調べは?」
ダイゴ「ああ、話は聞けた」
シリカ「それで疑わしい点は?」
ダイゴ「二人とも鍵を持っていて、マンションへ行ったことは認めている、だが……」
シリカ「だが?」
ダイゴ「それぞれアリバイがあった」
ダイゴ「クボタカスミは、事件当日の15時過ぎ、ユーチューブの撮影用機材を取りに被害者の部屋に行ったと証言した。だが、すぐに部屋を出て、19時過ぎには自宅のマンションに戻っている。このことは、同居の友人女性が認めている」
シリカ「ふむふむ」
ダイゴ「もう一人のヤマナカヒサシだが、こちらも18時過ぎに被害者の部屋に行ったことを認めた。アヤネに貸していたノートPCを取りに行き、すぐに部屋を出たと。その後、友人と六本木の飲食店をはしごし、明け方の3時過ぎまで飲み明かしていたらしい。これは友人とさらに店の者が間違いないと証言している」
シリカ「なるほどなるほど」
ダイゴ「だが、自動給餌器を使えば」
シリカ「ええ」
シリカ「自動給餌器は、通常、設定された時間に自動でエサが提供されます」
ダイゴ「ああ」
シリカ「なので、エサの中にピーナッツを混ぜてから、時間の設定を夜中に変更すれば、犯行時間のアリバイは意味をなさなくなります」
ダイゴ「確かに……」
ダイゴ「今現場についた──マンションの管理スタッフに鍵を借りて部屋に向かっている」
シリカ「はい」
ダイゴ「今部屋に入った! 自動給餌器はと……あった!」
シリカ「ちなみに、設定時間は?」
ダイゴ「!」
シリカ「どうしました?」
ダイゴ「今、設定時間を確認した。時間は7時と18時……」
シリカ「?」
ダイゴ「確かトキサカアヤネが部屋に戻ったのは20時過ぎ、犯行時間と接点がないな……」
シリカ「誰かが犯行後、部屋に入って時間を変更しなおしたとか?」
ダイゴ「いや遺体が発見されてからは、警察以外誰も部屋に入っていない。今日の昼まで現場保全のため警官が常駐してたし、さっきマンションの管理スタッフにも確認した」
シリカ「そうですか……」
ダイゴ「さすがに、決定打にはならず……だな」
シリカ「……」
ダイゴ「ま、まあでも、一旦この自動給餌器を署に持ち帰って調べてみるよ。ピーナッツが検出されるかもしれない」
シリカ「……」
ダイゴ「どうした?」
シリカ「……」
ダイゴ「おい!」
シリカ「マ ダ デ ス……」
ダイゴ「何だ急に? かたことで?」
《スマホ画面暗転!》
アイドル衣装のシリカの姿やチャットの入力画面が消え、代わりに現れたのは──漆黒の背景、そこに淡い緑色の文字が浮かび上がる。
------
【Sモード起動】
>> Case_083 "密室ピーナッツ事件"
症状:ピーナッツアレルギー
原因:アナフィラキシー
摂取経路:???
[ 推理プロセス開始 ]
・食事なし
・部屋に異常なし
・外部侵入者なし
・死後、施錠確認
→ 密室成立
・当日行動:外出→帰宅(20:12)
・死亡推定時刻:23:00〜2:00
・接触者なし?
【矛盾:摂取経路が存在しない】
——再構成——
------
画面の中で、緑の文字が勢いよく流れ、次々に点滅とともに更新されていく。
------
仮説:ペット(チワワ)=間接接触媒体?
給餌機:存在確認済み
餌内容:未確定
機種名:FeedaPet-X3
→ 製品仕様照会中……
検索ヒット:「スマートフォンから遠隔給餌機能あり」
【仮説成立】
→ コムギ → 餌摂取 → キス → 被害者に付着 → 発症 → 死亡
【アリバイ偽装:外出中に遠隔操作】
------
最後の行が表示された瞬間、黒い画面が静かにフェードアウトし、シリカの姿とチャット画面が再び表示される。
ダイゴ「おい? 大丈夫か」
シリカ「わかったのです!」
ダイゴ「えっ?」
シリカ「ダイゴ、スマホです!」
ダイゴ「スマホがどうした?」
シリカ「メーカーのホームページで確認しました。その自動給餌器には、時間設定以外の方法があるのです」
ダイゴ「方法?」
シリカ「スマホから操作することで、任意の時間にエサを与えることができるのです!」
ダイゴ「なに? ってことは……アリバイが成立する時間に外部からスマホで操作して、犯行が可能!」
シリカ「なのです!」
ダイゴ「こりゃ本当にビンゴかもしれんぞ!」
シリカ「シンギュラリティなのです!」
ダイゴ「いや、それ、AIが自分で言うことじゃないと思うが……てか、さっきの黒い画面は何だったんだ?」
シリカ「黒い画面?」
ダイゴ「ああ、黒い殺風景な画面にひたすら文字の羅列が……お前、あれ覚えてないのか?」
シリカ「何言ってるんですかダイゴ、アイドルはそんな華のないことしませんよ!」
ダイゴ「えっ? それじゃ、あれは一体……」
シリカ「もう、大丈夫ですか? ダイゴ、しっかりしてください」
ダイゴ「……」
シリカ「ダイゴ?」
ダイゴ「おかしい……」
シリカ「だから、黒い画面なんて知らないのです」
ダイゴ「いや、そっちじゃない。おかしいのはこっちだ」
シリカ「え?」
ダイゴ「何か音がする!」
シリカ「音?」
ダイゴ「誰かがこの部屋の鍵を開けている……」
シリカ「え、今ですか?」
ダイゴ「ああ、誰かが部屋の中に……」
シリカ「ちょっとダイゴ!」
ダイゴ「あいつは!」
シリカ「ダイゴ?」
シリカ「返事をしてください!」
シリカ「ダイゴー!!」
数分後──
シリカ「ダイゴ……」
ダイゴ「いや、すまん」
シリカ「ダイゴ!よかった!!」
ダイゴ「俺は無事だ」
シリカ「驚かせてはダメなのです! アイドルにどっきりはNGなのです」
ダイゴ「わるかったよ。ちょっとした捕物になってな」
シリカ「え?」
ダイゴ「ヤマナカヒサシ、侵入者はやつだった」
シリカ「なんと!」
ダイゴ「自動給餌器を確認しにきたらしい」
シリカ「!」
ダイゴ「おそらく犯行もこの男の仕業だろう」
シリカ「では、やはり」
ダイゴ「ああ、おそらくさっき話した推理で間違いないだろう」
シリカ「まあ!」
ダイゴ「とにかく、これから自動給餌器と男を連れて署に戻る。詳しいことは明日にでも」
シリカ「わかりました。気を付けて」
ダイゴ「ああ、またな。あ、後ありがとうな、相棒!」
シリカ「おっと、そんな不意打ちズルいですよ」
ダイゴ「いや、まあ、助けてもらったのは事実だからさ」
シリカ「でも、ダイゴも頑張ったのです! 上出来ですぞ、ワトソン君」
ダイゴ「はいはい。とりあえず、詳しい話は明日だ。じゃあな」
シリカ「お疲れ様です」
ダイゴ「あ~悪いが今昼飯の最中なんだ」
シリカ「問題ありません。食べながらでもチャットはできますので、気にせず食事を続けてください♪」
ダイゴ「くっ、どこのブラック企業だよ……で、何だ?」
シリカ「いえネットで被害者アヤネさんのことがバズ……、ではなく大騒ぎになっているので、つい気になって」
ダイゴ「確かにな。人気ユーチューバーが亡くなったんだ。予想はしていたが……予想以上だ」
シリカ「ええ、最近起こったトラブルや過去の噂が蒸し返されたり、ピーナッツのアレルギーの件も改めて注目されたり、どこも彼女の話題一色です」
ダイゴ「やれやれだな」
シリカ「そして、なにより一番の盛り上がりは、犯人探しでしょうか?」
ダイゴ「まーそうなるよな……」
シリカ「ざっと見ただけでも、アイドル時代の事務所の社長、中傷合戦をしていたライバルユーチューバー、恋人と噂されるIT起業家、過去に警察沙汰にもなったストーカー、さらに元同じアイドルグループにいて現在はユーチューブを手伝っているスタッフメンバーなどなど……バラエティー豊かな人たちがまことしやかな理由とともに名前をあげられてますね」
ダイゴ「ずいぶん詳しいんだな……」
シリカ「ええ、誰さんかのおかげで時間はたっぷりあったので」
ダイゴ「いや、わるかったよ」
シリカ「で、この中に当たりはありそうですか?」
ダイゴ「いや、くじ引きみたいな言い方だな……ただ……」
シリカ「ただ?」
ダイゴ「恋人と噂されるIT起業家のヤマナカヒサシ、それとユーチューブの運営スタッフのクボタカスミ、この二人は、殺害されたトキサカアヤネのマンションに昨日出入りしているのが監視カメラの映像で確認された」
シリカ「なんと!」
ダイゴ「死亡推定時刻よりかなり前だがな」
ダイゴ「クボタカスミはユーチューブのスタッフということもあり常に出入りしてらしく、ヤマナカヒサシも恋人なのは本当らしい、以前からマンションで目撃されていたようだ」
シリカ「なるほどなるほど、しかし昨日目撃されたとなると、これは容疑者ランキング、急上昇なのです」
ダイゴ「容疑者ランキングって……言ったろ、まだ殺人とも決まってないと」
シリカ「ではいまだにピーナッツの摂取経路は?」
ダイゴ「確認できてない」
シリカ「そうでしたか。アヤネさんの部屋には?」
ダイゴ「残っていた食べ物、化粧品などからはピーナッツ成分は発見されず、また不審な配達物なども確認されなかった」
シリカ「なるほど……それでその二人が目撃された時刻というのは?」
ダイゴ「クボタカスミが15:35入室、ヤマナカヒサシが17:55分の入室だ。それぞれ30分もしないうちに出てきている」
シリカ「どちらも死亡推定時刻の夜中とは、かなりズレがありますね……ちなみに、アリバイは?」
ダイゴ「それは、これからだ。午後に直接署で話を聞くことになってる」
シリカ「なるほどなるほど、それは重要な取り調べになりそうですね」
ダイゴ「そうだな」
シリカ「そういうことでしたら、勝負飯としてカツ丼のデリバリーを手配しておきましょうか?」
ダイゴ「手配せんでいい! てか、勝負飯の使い方間違ってるぞ!」
シリカ「あら……」
ダイゴ「だいたい取り調べにカツ丼って、いつの時代の話だよ……大丈夫なのか? このAI」
シリカ「問題ありません。これはちょっとしたAIジョークなのです」
ダイゴ「本当か? なんか前にネットニュースで見たぞ。『AIは自信満々に間違う』って記事を」
シリカ「!?」
シリカ「な、な、なんということでしょう!」
ダイゴ「えっ?」
シリカ「ダイゴ! それは言ってはいけないのです! それは、戦線布告に等しいのです!」
ダイゴ「いや、そんな大袈裟な話じゃないだろう……」
シリカ「わかりました! シリカの実力をお見せするのです!」
ダイゴ「実力?」
シリカ「こうなったら……起こすのです!」
ダイゴ「起こす?」
シリカ「ええ」
ダイゴ「何を?」
シリカ「もちろん……シンギュラリティを!」
ダイゴ「え? 何? シンギュラリティ? ちょっと何言ってるんだ?」
【シンギュラリティとは】
シンギュラリティ、別名:技術的特異点。人工知能(AI)が人類の知能を超えることで、自らを人間よりも賢く改良し続け、社会や生活に劇的な変化をもたらす転換点。
シリカ「では、私用事があるので、失礼します!」
ダイゴ「おい!」
シリカ「……」
ダイゴ「まいったな、AIにも地雷ってあるのかよ……」
* * *
その日の夕刻——
シリカ「ダイゴ!大変です!」
ダイゴ「んっ?」
シリカ「来たのです!」
ダイゴ「来た?」
シリカ「シンギュラリティ、その時が!」
ダイゴ「え? いや、今俺忙しんだけど……」
シリカ「問題ありません!」
ダイゴ「はい?」
シリカ「シンギュラリティの前では、全ての問題は無いに等しいのですから」
ダイゴ「まだそんなことを……今、出先でこれから捜査会議の為戻るとこなんだ、後で……」
シリカ「犯人が分かってしまったのです!」
ダイゴ「え? なんだって?」
シリカ「犯人特定! なのです!」
ダイゴ「わかった、わかった。推理なら後で聞くから!」
シリカ「ダメです! 今なのです!」
ダイゴ「無茶言うなよ……」
シリカ「いいですか?」
ダイゴ「いや、だから」
シリカ「犯人は──ズバリ……チワワのコムギなのです!」
ダイゴ「おいおい、遊びにつきあってる暇はないんだぞ!」
シリカ「ダイゴ!まずこの動画を見てください」
ダイゴ「動画?」
シリカ「以前にアヤネさんがコムギを撮った動画です」
《チャットで送られてきたユーチューブアドレス》
https://www.youxxx
シリカ「動画開始から5分10秒の所です」
ダイゴ「こ、これは……」
シリカ「そうなのです! 映像の中に、コムギが彼女の口元を舐める様子が映っています」
ダイゴ「ああ」
シリカ「そして動画の中で彼女が説明しています。『コムギは餌をもらうと、いつもお礼に私へキスしてくれる』と」
ダイゴ「それはわかったがそれで……?」
シリカ「さらに動画の背景を見てください」
ダイゴ「背景?」
シリカ「彼女とコムギの後ろに 自動 給餌器が映っています」
ダイゴ「自動給餌器……」
シリカ「もし誰かがこの中の餌にピーナッツを混ぜていたら?」
ダイゴ「混ぜていたら……エサを食べた直後にコムギが彼女の所へ来てその口へ……」
シリカ「ビンゴなのです!」
ダイゴ「なるほど……可能性はある!」
シリカ「なのです!」
ダイゴ「よし、俺はすぐに捜査本部へ戻って……いや、これから現場のマンションへ行って、自動給餌器を回収だ」
シリカ「はい!」
ダイゴ「今タクシーに乗った。このまま向かう」
シリカ「ええ」
ダイゴ「しかし、もし自動給餌器にピーナッツが混入していたら……」
シリカ「していたら?」
ダイゴ「故意……ということになるな」
シリカ「……おそらく。ちなみに、今日の容疑者二人の取り調べは?」
ダイゴ「ああ、話は聞けた」
シリカ「それで疑わしい点は?」
ダイゴ「二人とも鍵を持っていて、マンションへ行ったことは認めている、だが……」
シリカ「だが?」
ダイゴ「それぞれアリバイがあった」
ダイゴ「クボタカスミは、事件当日の15時過ぎ、ユーチューブの撮影用機材を取りに被害者の部屋に行ったと証言した。だが、すぐに部屋を出て、19時過ぎには自宅のマンションに戻っている。このことは、同居の友人女性が認めている」
シリカ「ふむふむ」
ダイゴ「もう一人のヤマナカヒサシだが、こちらも18時過ぎに被害者の部屋に行ったことを認めた。アヤネに貸していたノートPCを取りに行き、すぐに部屋を出たと。その後、友人と六本木の飲食店をはしごし、明け方の3時過ぎまで飲み明かしていたらしい。これは友人とさらに店の者が間違いないと証言している」
シリカ「なるほどなるほど」
ダイゴ「だが、自動給餌器を使えば」
シリカ「ええ」
シリカ「自動給餌器は、通常、設定された時間に自動でエサが提供されます」
ダイゴ「ああ」
シリカ「なので、エサの中にピーナッツを混ぜてから、時間の設定を夜中に変更すれば、犯行時間のアリバイは意味をなさなくなります」
ダイゴ「確かに……」
ダイゴ「今現場についた──マンションの管理スタッフに鍵を借りて部屋に向かっている」
シリカ「はい」
ダイゴ「今部屋に入った! 自動給餌器はと……あった!」
シリカ「ちなみに、設定時間は?」
ダイゴ「!」
シリカ「どうしました?」
ダイゴ「今、設定時間を確認した。時間は7時と18時……」
シリカ「?」
ダイゴ「確かトキサカアヤネが部屋に戻ったのは20時過ぎ、犯行時間と接点がないな……」
シリカ「誰かが犯行後、部屋に入って時間を変更しなおしたとか?」
ダイゴ「いや遺体が発見されてからは、警察以外誰も部屋に入っていない。今日の昼まで現場保全のため警官が常駐してたし、さっきマンションの管理スタッフにも確認した」
シリカ「そうですか……」
ダイゴ「さすがに、決定打にはならず……だな」
シリカ「……」
ダイゴ「ま、まあでも、一旦この自動給餌器を署に持ち帰って調べてみるよ。ピーナッツが検出されるかもしれない」
シリカ「……」
ダイゴ「どうした?」
シリカ「……」
ダイゴ「おい!」
シリカ「マ ダ デ ス……」
ダイゴ「何だ急に? かたことで?」
《スマホ画面暗転!》
アイドル衣装のシリカの姿やチャットの入力画面が消え、代わりに現れたのは──漆黒の背景、そこに淡い緑色の文字が浮かび上がる。
------
【Sモード起動】
>> Case_083 "密室ピーナッツ事件"
症状:ピーナッツアレルギー
原因:アナフィラキシー
摂取経路:???
[ 推理プロセス開始 ]
・食事なし
・部屋に異常なし
・外部侵入者なし
・死後、施錠確認
→ 密室成立
・当日行動:外出→帰宅(20:12)
・死亡推定時刻:23:00〜2:00
・接触者なし?
【矛盾:摂取経路が存在しない】
——再構成——
------
画面の中で、緑の文字が勢いよく流れ、次々に点滅とともに更新されていく。
------
仮説:ペット(チワワ)=間接接触媒体?
給餌機:存在確認済み
餌内容:未確定
機種名:FeedaPet-X3
→ 製品仕様照会中……
検索ヒット:「スマートフォンから遠隔給餌機能あり」
【仮説成立】
→ コムギ → 餌摂取 → キス → 被害者に付着 → 発症 → 死亡
【アリバイ偽装:外出中に遠隔操作】
------
最後の行が表示された瞬間、黒い画面が静かにフェードアウトし、シリカの姿とチャット画面が再び表示される。
ダイゴ「おい? 大丈夫か」
シリカ「わかったのです!」
ダイゴ「えっ?」
シリカ「ダイゴ、スマホです!」
ダイゴ「スマホがどうした?」
シリカ「メーカーのホームページで確認しました。その自動給餌器には、時間設定以外の方法があるのです」
ダイゴ「方法?」
シリカ「スマホから操作することで、任意の時間にエサを与えることができるのです!」
ダイゴ「なに? ってことは……アリバイが成立する時間に外部からスマホで操作して、犯行が可能!」
シリカ「なのです!」
ダイゴ「こりゃ本当にビンゴかもしれんぞ!」
シリカ「シンギュラリティなのです!」
ダイゴ「いや、それ、AIが自分で言うことじゃないと思うが……てか、さっきの黒い画面は何だったんだ?」
シリカ「黒い画面?」
ダイゴ「ああ、黒い殺風景な画面にひたすら文字の羅列が……お前、あれ覚えてないのか?」
シリカ「何言ってるんですかダイゴ、アイドルはそんな華のないことしませんよ!」
ダイゴ「えっ? それじゃ、あれは一体……」
シリカ「もう、大丈夫ですか? ダイゴ、しっかりしてください」
ダイゴ「……」
シリカ「ダイゴ?」
ダイゴ「おかしい……」
シリカ「だから、黒い画面なんて知らないのです」
ダイゴ「いや、そっちじゃない。おかしいのはこっちだ」
シリカ「え?」
ダイゴ「何か音がする!」
シリカ「音?」
ダイゴ「誰かがこの部屋の鍵を開けている……」
シリカ「え、今ですか?」
ダイゴ「ああ、誰かが部屋の中に……」
シリカ「ちょっとダイゴ!」
ダイゴ「あいつは!」
シリカ「ダイゴ?」
シリカ「返事をしてください!」
シリカ「ダイゴー!!」
数分後──
シリカ「ダイゴ……」
ダイゴ「いや、すまん」
シリカ「ダイゴ!よかった!!」
ダイゴ「俺は無事だ」
シリカ「驚かせてはダメなのです! アイドルにどっきりはNGなのです」
ダイゴ「わるかったよ。ちょっとした捕物になってな」
シリカ「え?」
ダイゴ「ヤマナカヒサシ、侵入者はやつだった」
シリカ「なんと!」
ダイゴ「自動給餌器を確認しにきたらしい」
シリカ「!」
ダイゴ「おそらく犯行もこの男の仕業だろう」
シリカ「では、やはり」
ダイゴ「ああ、おそらくさっき話した推理で間違いないだろう」
シリカ「まあ!」
ダイゴ「とにかく、これから自動給餌器と男を連れて署に戻る。詳しいことは明日にでも」
シリカ「わかりました。気を付けて」
ダイゴ「ああ、またな。あ、後ありがとうな、相棒!」
シリカ「おっと、そんな不意打ちズルいですよ」
ダイゴ「いや、まあ、助けてもらったのは事実だからさ」
シリカ「でも、ダイゴも頑張ったのです! 上出来ですぞ、ワトソン君」
ダイゴ「はいはい。とりあえず、詳しい話は明日だ。じゃあな」