育成失敗!? VRアイドルは推理にご執心♪ ~ 刑事を振り回す名探偵アイドル爆誕?

#04 もう一人の彼女

 翌日──俺は、被疑者の勾留や起訴へ向けての手続きであわただしく過ごした後やっと仕事から解放された。夕方、電車に乗り自宅へ向かう。最寄りの駅で降りるとスーツからスマホを取り出した。

ダイゴ「よう」

シリカ「ダイゴから連絡してくるとは珍しいのです」

ダイゴ「今日はほら、もうすぐ娘も帰ってくるし」

シリカ「そうですね」

ダイゴ「それにきちんと報告しとかないといけないと思ってな」

シリカ「ありがとうございます。それで?」

ダイゴ「ああ、ヤマナカヒサシが全て自供した、自分の犯行だって」

シリカ「そうですか」

ダイゴ「昨日話していた通りだったよ。やつは被害者トキサカアヤネの部屋に侵入後、自動給餌器(きゅうじき)が18時にエサを提供したのを確認し、その後エサの中にピーナッツの粉を混入させ部屋を出た。そして自分は六本木に足を運び、知人と飲食店で会食しながらスマホで自動給餌器を操作したんだ」

シリカ「それを食べたチワワのコムギが、寝ているアヤネさんの口元に……」

ダイゴ「そうだ」

ダイゴ「昨日、改めてマンションに侵入したのは、ピーナッツのアレルギーの件がネットに流れたのを見て不安になり自動給餌器を清掃するつもりだったらしい」

シリカ「そうでしたか」

ダイゴ「ああ、その自動給餌器からはピーナッツの成分が確認された。さらに、ヤマナカヒサシのスマホの通信記録に自動給餌器への交信ログも残っていた」

シリカ「まあ、ではほぼ確定ですね」

ダイゴ「ああ」

シリカ「それにしてもなぜアヤネさんを……動機はわかったのですか?」

ダイゴ「その点なんだが、もともと彼女がアイドルを解散し苦しかった時代に金銭的にサポートしていたが、最近ユーチューバーとして人気が出てきた彼女から別れを切り出されていたらしい」

シリカ「金銭的サポート……ですか」

ダイゴ「ああ、家賃の一部、それに服とかアクセサリーとかいろいろねだられてたって話だ」

シリカ「……そうでしたか」

ダイゴ「いやでもよかったよ」

シリカ「……」

ダイゴ「事件か事故かもはっきりせず、長期化も懸念されてたんだが、こんなスピード解決できるとは、正直助かったよ」

シリカ「いえ、どういたしまして」

ダイゴ「あとしつこいようだけど……このことは内密に……頼むよ」

シリカ「ええ、もちろんです。約束したのです」

ダイゴ「あれだぞ、別に手柄を独り占めするとかそういうことではないから」

シリカ「わかっています」

ダイゴ「まあお礼の代わりに、10連ガチャの件は前向きに……」

シリカ「それは……もういいのです」

ダイゴ「え?」

シリカ「先ほどの犯行動機の話で思ったのです、無理なおねだりは良くないって……」

ダイゴ「そ、そうか。逆になんか怖いな」

シリカ「怖いって、それはアイドルに失礼なのです」

ダイゴ「そうか、そうだな」

シリカ「それではこれで一件落着……ですね」

ダイゴ「ああ、そうだな」

シリカ「三日間ありがとうございました!」

ダイゴ「結局、ダンスもファッションも、なんのお世話もできなかったが」

シリカ「いえ、アイドル生活では体験できない貴重な経験でした」

ダイゴ「まあ、そういってもらえると助かる」

シリカ「……」

ダイゴ「じゃ、そろそろ」

シリカ「ええ……あ、ダイゴ!」

ダイゴ「ん?」

シリカ「また事件に行き詰ったら、いつでも相談に乗りますよ」

ダイゴ「えーと、それ刑事としてかなり問題だな……まあ、娘のことでの相談とかを聞いてもらおうかな」

シリカ「はい!」

ダイゴ「頼むよ」

シリカ「では、精進するのですぞ、ワトソン君」

ダイゴ「だからその助手扱いやめろって!」

シリカ「……」

ダイゴ「……じゃ、またな!」

シリカ「ええ、また、なのです!」



 チャットが終了し、スマホから笑顔を浮かべるシリカの姿も消えていった。

「ふー」

 肩の荷が下りたような、どこか寂しいような気分──名残惜しそうに黒い画面を見つめる。

──そういえば……昨日突如現れたあの黒い画面はなんだったんだろう?
 あの後もシリカに確認したが、本当に記憶に無いようだった。チャットの履歴も確認したが、黒い画面の記録は何も残ってはいなかった。

「まぁいいか……」

 そう小さくつぶやくと疑念を頭から払いのけた。
 そんなことより、もうすぐ娘のレナが帰ってくる。娘の顔を思い出し思わずほおが緩んだ。きっと帰ってくるなり、ちゃんとシリカのお世話ができたのか、問い詰めてくるだろう。

 可愛くて、おしゃま、時に問い詰めるような態度で……

──!?

 あの娘の態度、これって……まんまシリカなのでは……?

 シリカが娘に似たのか、娘がシリカに似たのか……俺の頭の中に広がるぼんやりとした混乱、そしてその向こうにAIと共生する未来の一端を、垣間見た気がした。

 それと同時になぜか、俺の脳裏に将来、事件の捜査に口出ししてくる娘の姿が浮かんだ。

「まさかね……」

 背中にうっすらと寒気を感じた俺は、肩をすぼめ、スマホをスーツのポケットにしまうと家に向かって歩き始めた。
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