ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
 ◇

「おーい、真希。例の一年坊主に失恋したんだって?」

 文化祭も終わって数日。
 いつもの居酒屋で、暇なメンツで集まって飲んでいると、また稔がニヤニヤしながら肩を組んできた。

「……関係ないでしょーっ」

 ルーティンのようにその手をベリッと剥がす。

「慰めてやるって」
「結構でーす」

 稔は弾かれた手で自分のジョッキを持ち上げ、ふう、と息を吐いた。

「……こんなに押しても響かないことなんて、あるもんかねー」

 独り言のように呟かれた言葉で、祥くんのことを思い出した。

 美絵ちゃんに向けていた、甘い眼差し。

(私、結構押してたのに。あんな顔、ちっとも引き出せなかったし、想像すらできなかったなあ)

「……そんなの、私だって聞きたいよっ」

 稔の台詞を自分自身に重ねてしまい、ヤケクソ気味にビールを喉に流し込んだ。

「え? ……あっ!」

 ガシャンッ!

 私の言葉を聞き返そうとしたのか、身を乗り出した稔の腕がジョッキに当たり、残っていたビールがテーブルにこぼれた。

「ちょっと、もー! 何やってんの!」

 慌てておしぼりを掴み、テーブルや稔のズボンを拭くのを手伝う。
 そのとき、不意に稔と手が重なった。

(……ん?)

 顔を上げると、稔は慌ててバッと手を引っ込めた。

(なんか、指、震えてなかった?)

 一瞬の感覚に、首を傾げる。
 普段、あんなに無遠慮に肩を組んでくるくせに、手が触れたくらいで緊張なんかするのだろうか。

「……なんだよ」

 不思議に思ってじっと顔を見ていたら、プイッとそっぽを向かれてしまった。

「……いや。別に? はい。新しいの頼みなよ」

 テーブルを拭き終わり、メニューを手渡す。

 稔は、いつもの調子がすっかり狂ってしまったように、ぎこちない様子で店員さんを呼んでいた。


 もしかして。
 ちょっと無理してチャラいキャラを装ってただけ……?

 だとしたら……ちょっと可愛いかもしれない。


 そんな勝手な予想に行き着くと、不覚にも、少しだけ胸がキュンとした。

 追いかけたいタイプなもので、相手に意表を突かれるということが、初めての経験だったのだ。
 まあ別に、稔の反応の真意は、わからないのだけれど――。


 ざわめく居酒屋の中。
 狭い座席のスペースでは、どうしても隣と身体がぶつかってしまうことに、今さら気がついた。

 秋から冬へと移り変わる季節。
 不思議な風が、私の中をすり抜けていった、そんな夜だった。



―― 終 ――
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