ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
 モノクロを基調とした、広いミーティングルーム。
 執務エリアよりも暖房の効きが弱く、背後の窓ガラスから外の冷気を感じる。

 チームメンバー五人でテーブルを囲み、全員が手元の資料にじっと見入っていた。
 その静寂を破り、口を開く。

「……私、この一つだけ納得がいっていなくて」

 資料の一部を指差すと、周囲の視線が一斉にこちらへと集まる。
 普段は自分から意見を言うタイプではないのだけれど、『この場面』になると、途端に熱が入ってしまう。

「この子は、友達が寒がっているときに、そっとくっついて温めてあげるような優しい子です。だから、このイタズラ顔の『バナナの皮を置いて転ばせちゃおう』というスタンプ案は、キャラクター性に合っていないのではないかという懸念があって……」

 斜め向かいに座る上司が、「うーん。たしかに、森さんの言う通りだな……」と宙を眺めながら呟いた。

「ギャップを出したいってことで入れた案だったけど、もっといい見せ方があるかもしれないな」

 私は現在、キャラクター事業を手がける会社で働いており、メッセージアプリなどで使うスタンプの企画を担う部署にいる。

 今回の対象は、看板を背負うほどではないものの、ふわふわとした毛並みが愛らしいウサギのキャラクター。
 今は、その性格や世界観と企画案が合致しているか、すり合わせている段階だ。

「この子を好きでいてくれるユーザーは、癒やしを求めている層だと思うんです。たとえば……『友達を温めようと走ったら、自分でつまずいて転んでしまう』とか……どうでしょう?」

 そう提案してみたが、すぐに違和感に気づいて苦笑いする。

「あ、でもこれだと狙っていた『ギャップ』にはならないですね……」

 メンバーの一人が同意するように頷いた。

「私も、気になるとすれば森さんの指摘したその一点ですね」

 けれど、他の一人が顎に手を当てた。

「でも、来週中にはデザイナーチームに発注を回したいから、なるべく早めに代案を決めないと」

「そうなんだよな……」

 上司が手元のカレンダーを確認し、迷っている。
 その様子を見て、思わず身を乗り出した。

「……私、急ぎで新しい案を考えます!」

「お、助かる。じゃあ、森さんよろしく」

 ちょうど終了の時間となり、ミーティングはお開きになった。
 次の会議に向かう者、デスクでの作業に戻る者と、メンバーはそれぞれの業務へと足早に散っていった。
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