ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
 ◇

 帰りの電車に乗り込む。

「次出かけるの、どこがいい?」

 祥ちゃんが穏やかな声で問いかけてくれる。

「んー。遊園地かなあ? ジェットコースターあるところがいい!」
「へえ。好きなの?」
「うんっ」

 彼は「はは。そうなんだ」と、なぜか嬉しそうに笑っていた。
 その笑顔に、また『好き』が募る。

「…………」
「…………」

 ふと会話が途切れたとき。
 彼が、二人のあいだに置いていた私の手を、そっと包んだ。

 付き合った日とは違う、繋ぎ方――。

 彼の骨ばった指を感じて、鼓動のスピードが急速に上がっていく。

(こ、『恋人繋ぎ』……!)

 静かに目を丸くしながら隣を盗み見ると、祥ちゃんは少し視線を落として前を向いたままでいる。

 ドキドキするけれど、居心地の良さもあって――この時間がずっと続いてほしくなった。


「……じゃあ、バイト頑張って」

 そんな願いとは裏腹に、電車はすぐに祥ちゃんの降りる駅に着いてしまった。
 私も彼も、このあと直接バイト先へ向かうのだ。

 名残惜しそうに、するりとほどかれる指たち。

「……うん。祥ちゃんも」

 立ち上がった彼が、「……あ」と振り返る。

「今日……楽しかった。ありがとう」

 少し照れながらも、そう言ってくれた。

「私もっ……! ありがとう!」

「うん」

 目尻を下げながら控えめに手を上げた祥ちゃんは、ホームに残り、走り出す電車を見送ってくれる。

 窓越しに、小さく手を振り合ってバイバイした。


 彼の姿が見えなくなった瞬間、もう恋しくなる。

 小さく揺れる座席で、一人ぼんやりと考えた。

(もっと……くっついとけばよかった)

 車内でお別れのハグ……なんてことは、もちろんできないし。
 その先……も、初めてのデートだから、ちょっぴり期待している私がいたのだけれど。

 初めての手の繋ぎ方と、別れ際に見た笑顔を思い出す。

 彼は私の……恋人なんだ。

 改めてそう考えるだけで、これから近づいていく距離への期待で、また胸が高鳴ってしまうのだった。



―― 終 ――
< 9 / 44 >

この作品をシェア

pagetop