似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「思い出したか。俺も驚いたよ。あの時の人が、知人の命の恩人だったんだから」
「すごい偶然ですね……!」
「あの時、本当に笑いそうだった。それに、仲間がいる気がして良かったな」
「分かります! 私も勝手に同士だって思ってました。ふふふっ」
顔を見合わせて笑い合うと、爽やかなそよ風が二人の間を抜けていく。
「なんでホテルのラウンジであんな話を? あぁ、答えたくなければ別に良いんだが」
「浮気されていたので、別れようって言ったんです。それなのにプロポーズされたので思わず……」
美空が苦笑いしながら白状すると、医師は少しだけ目を見開いた。
「そうか……本当に良く似た状況だったんだな」
「そうなんですか?」
「あぁ。結婚を前提にという話で付き合っていたんだが、彼女が外で遊んでいたんだ。だからあの日、お断りしたんだが……残念ながら諦めてもらえていない」
「えぇ……? すごく面倒な事になっているんですね」
美空は思わず同情した。自分よりも彼の方が厄介なことになっていそうだったから。
苦い顔をして二人が押し黙ると、スマホがブルブルと震えた。いつもより大きな音で振動している。
美空が慌ててスマホを取り出すのと、医師がポケットからスマホを取り出すのがほぼ同時だった。
「メール?」
「はい。そちらも?」
「そうみたいだ」
美空のスマホには『洋介』と表示されている。
嫌な予感を押さえ込みながらスマホをタップすると、とんでもない文字が目に飛び込んできた。
『美空、そろそろ意地を張るのをやめろ。もう分かっただろ? 俺と付き合っていないお前なんか、職場でも戦力外だ。不安になったか? 来週、もう一度だけ話し合いのチャンスをやる。この間のホテルに来い。このメールも無視するようなら、お前のご両親に連絡するからな』
(何言ってるの? 一文字も理解できない。っていうか、したくないっ……!)
思わず深いため息が漏れる。
チラリと横を見ると、美空とまったく同じ顔をした医師が低い呻き声のような音を出していた。
「こいつは人の言葉が通じないのか……?」
「どうかしましたか? また恋人の女性ですか?」
ため息交じりの言葉が気になって、つい話しかけてしまう。
彼は強張った笑みを浮かべながら、スマホをこちらに向けてきた。
「そう。まあ政略結婚に近いから、向こうは断られないように必死ってわけ。こっちとしても知人の娘だから無下に出来ない。……はぁ、手強いんだ」
美空はあの時、ホテルにいた女性を思い浮かべる。後ろ姿しか見えなかったが、モデル体型の美しい人だった。
「お相手の方は、まだ諦めていないのですね。心中お察し……は難しいですけど、大変ですね」
慰めにもならない美空の言葉に、彼は脱力したように笑う。
「そうみたいだ。君も元気なくなったけど、そのメールのせい?」
「あー……はい。元カレからでした。今度、もう一度話をしようって。無理なら私の実家に行くって。彼、両親に気に入られていたんで面倒なんです」
今日初対面の相手に話しすぎな気もしたが、なぜか彼にはつい話してしまう。
「ふうん、君の相手もなかなか手強そうだ」
「いっそ新しい恋人でもいたら安心なんですけどね」
「両親が安心するような?」
「そうです。この人と婚約してるんで! って言えるような……なんて、無理ですけど」
後藤の言葉を思い出し、冗談交じりに美空が笑うと、医師は真面目な顔をして「確かに。相手がいたらいいのか」と考え込んでいた。
(こんな戯言を真に受けるくらい、追い詰められているのね。可哀想に)
自分より窮地に立っている人間を見ると、怒りも不安も落ち着いてくる。
ふと顔を上げた彼に微笑みかけた。
「とりあえず、私の方はあと一回話したら満足してくれるそうなんで、頑張ってきます! なんと、この間と同じ場所ですよ。先生も何とか頑張ってください」
すると彼は美空をじっと見つめた後、手を差し出してきた。
「宮倉優斗(みやくら ゆうと)だ。無事に終わるように応援してる」
「宮倉さん……。私は桜井美空です。同士として応援しています」
「お互い、ほどほどに頑張ろう」
「ふふふ、はい」
不思議な縁に笑いながら、宮倉と別れて病院を後にする。
(洋介のこと、こんなに話したのって初めてかも。ありがとうございます、宮倉さん)
一人であのメールを受け取っていたら、どうしようもなく落ち込んでいたに違いない。
美空は宮倉に感謝しながら帰路に着いた。
「すごい偶然ですね……!」
「あの時、本当に笑いそうだった。それに、仲間がいる気がして良かったな」
「分かります! 私も勝手に同士だって思ってました。ふふふっ」
顔を見合わせて笑い合うと、爽やかなそよ風が二人の間を抜けていく。
「なんでホテルのラウンジであんな話を? あぁ、答えたくなければ別に良いんだが」
「浮気されていたので、別れようって言ったんです。それなのにプロポーズされたので思わず……」
美空が苦笑いしながら白状すると、医師は少しだけ目を見開いた。
「そうか……本当に良く似た状況だったんだな」
「そうなんですか?」
「あぁ。結婚を前提にという話で付き合っていたんだが、彼女が外で遊んでいたんだ。だからあの日、お断りしたんだが……残念ながら諦めてもらえていない」
「えぇ……? すごく面倒な事になっているんですね」
美空は思わず同情した。自分よりも彼の方が厄介なことになっていそうだったから。
苦い顔をして二人が押し黙ると、スマホがブルブルと震えた。いつもより大きな音で振動している。
美空が慌ててスマホを取り出すのと、医師がポケットからスマホを取り出すのがほぼ同時だった。
「メール?」
「はい。そちらも?」
「そうみたいだ」
美空のスマホには『洋介』と表示されている。
嫌な予感を押さえ込みながらスマホをタップすると、とんでもない文字が目に飛び込んできた。
『美空、そろそろ意地を張るのをやめろ。もう分かっただろ? 俺と付き合っていないお前なんか、職場でも戦力外だ。不安になったか? 来週、もう一度だけ話し合いのチャンスをやる。この間のホテルに来い。このメールも無視するようなら、お前のご両親に連絡するからな』
(何言ってるの? 一文字も理解できない。っていうか、したくないっ……!)
思わず深いため息が漏れる。
チラリと横を見ると、美空とまったく同じ顔をした医師が低い呻き声のような音を出していた。
「こいつは人の言葉が通じないのか……?」
「どうかしましたか? また恋人の女性ですか?」
ため息交じりの言葉が気になって、つい話しかけてしまう。
彼は強張った笑みを浮かべながら、スマホをこちらに向けてきた。
「そう。まあ政略結婚に近いから、向こうは断られないように必死ってわけ。こっちとしても知人の娘だから無下に出来ない。……はぁ、手強いんだ」
美空はあの時、ホテルにいた女性を思い浮かべる。後ろ姿しか見えなかったが、モデル体型の美しい人だった。
「お相手の方は、まだ諦めていないのですね。心中お察し……は難しいですけど、大変ですね」
慰めにもならない美空の言葉に、彼は脱力したように笑う。
「そうみたいだ。君も元気なくなったけど、そのメールのせい?」
「あー……はい。元カレからでした。今度、もう一度話をしようって。無理なら私の実家に行くって。彼、両親に気に入られていたんで面倒なんです」
今日初対面の相手に話しすぎな気もしたが、なぜか彼にはつい話してしまう。
「ふうん、君の相手もなかなか手強そうだ」
「いっそ新しい恋人でもいたら安心なんですけどね」
「両親が安心するような?」
「そうです。この人と婚約してるんで! って言えるような……なんて、無理ですけど」
後藤の言葉を思い出し、冗談交じりに美空が笑うと、医師は真面目な顔をして「確かに。相手がいたらいいのか」と考え込んでいた。
(こんな戯言を真に受けるくらい、追い詰められているのね。可哀想に)
自分より窮地に立っている人間を見ると、怒りも不安も落ち着いてくる。
ふと顔を上げた彼に微笑みかけた。
「とりあえず、私の方はあと一回話したら満足してくれるそうなんで、頑張ってきます! なんと、この間と同じ場所ですよ。先生も何とか頑張ってください」
すると彼は美空をじっと見つめた後、手を差し出してきた。
「宮倉優斗(みやくら ゆうと)だ。無事に終わるように応援してる」
「宮倉さん……。私は桜井美空です。同士として応援しています」
「お互い、ほどほどに頑張ろう」
「ふふふ、はい」
不思議な縁に笑いながら、宮倉と別れて病院を後にする。
(洋介のこと、こんなに話したのって初めてかも。ありがとうございます、宮倉さん)
一人であのメールを受け取っていたら、どうしようもなく落ち込んでいたに違いない。
美空は宮倉に感謝しながら帰路に着いた。